<第七十三章;合従連衡>
≪一節;公主の駒≫
〔この度の、カ・ルマ進出に関する軍儀も滞りなく終わり、
作戦会議室の部屋より退出する三人の人影、
そのうちの一人であるイセリアは―――〕
イ:それでは、中軍師殿が申されたように、
早急に某国での作戦の展開を、なしえたいと思っております。
それでは―――
婀:うむ―――
それにしても、すでにその視野を国内ではなく、国外に向けておられるとは・・・
さすがと申しましょうか―――
タ:いえ―――・・・
それよりも公主様、おひとつお伺いしたいのですが・・・
婀:ふむ、何でございましょう。
タ:今、あなた様が騎乗されておられる馬・・・お乗換えになられたほうが―――
婀:・・・ふぅ――――
アレは確かに良馬―――であるが、戦場(いくさば)には不向きであるのを感じた・・・
とはいえ、妾は騎上での指揮を得意としておる。
〔結局―――軍儀は、中軍師・タケルの案を採用して閉会し、
イセリアは自らの宣言通り、ハイネスブルグへと赴いたのです。
そして、タケルと供に西方に展開しよう―――と、誘(いざな)われた婀陀那は、
タケルの戦略の展開の迅さと拡さに賞賛を讃えていたのです。
しかし―――タケルが婀陀那を誘(いざな)った“真の目的”・・・
それは、彼女の騎乗している駒―――件の白馬が、遠乗りや領内を巡察する上では、
とり回しなどが非常に良好だったのですが、
逆に―――血なまぐさい戦場には不向き・・・
ある日―――クギトゲイバラの棘(とげ)に腕を引っ掛け、その傷より出る血に、過敏なまでに反応をしたその馬・・・
そんな微々たるモノに、ああまで怯えようとは・・・
そのおかげで、この馬が“血”に弱いことが判ってしまったのです。
そのことを、どこより知りえていたのか・・・
タケルが指摘して、自分の胸のうちを吐露してみたところ、
どうやら、今回タケルが婀陀那を誘(いざな)った理由に、そのことが関与しているらしいのです。〕