≪六節;“人中”と“馬中”≫
〔そんな馬に・・・他人が近づけばどうだろう―――?
そんな心配をしていたのですが・・・〕
婀:―――・・・。
―― バ バッ! ――
ブヒヒィ〜〜―――ン!
ブルルル・・・・ ブルル・・・ ブルルル――――
婀:(フフッ―――なるほど・・・これは聞きにし勝る、じゃじゃ馬じゃな!
然は云えども、ようやく見つけたぞ! 妾の戦場での駒を―――!!)
キ:あ・・・ああっ―――! こんな狭いところで・・・
チ:なんとも無茶を―――ああっ、将軍様!
――〜 ガッ☆ ガ・ガッ・・・ 〜――
タ:あの仕草・・・ここより出るつもりか―――
婀:(行ける・・・な―――)・・・もとよりそのつもりか―――ならば・・・
駆けよ―――!!
ノ:ぷはぁ〜〜っ・・・なんてヤツだ―――
折角、出入り口というものがあるというのに、何も壁をぶち破って出るのがあるか―――
タ:ふっ・・・だが、あのはねっかえりが、嬉し気なる表情をしたのを見たのは初めてだな。
チ:・・・・。
タ:―――どうしたチカラ、彼女をとられて悔しいのか。
チ:ええ・・・今少しで、手前が乗りこなせるものと思っていましたのに・・・
ですが、将軍様の、イキズキの手綱を取ったときのあの表情―――
まさに、人馬とも的を得たり・・・とは、このことなのでございましょうか。
〔暫く―――人と馬は互いの眸を見つめ合わさりました・・・
すると、人のほうが先に動き、鞍もつけていない状態で、その馬―――〔イキズキ〕の背に跨った・・・
そのことを馬は、さも当然の如くに激しい抵抗を試み、狭い厩舎の中を暴れまわり、
背上の乗り手を振り落とそうとしたのです。
それを婀陀那はしのぎきり、イキズキも大人しくなったか―――と、見えたその瞬間、
今度は闘牛がするように、地面を蹴上げるかのような仕草・・・〕
あたかも、“これから全力で疾走してやるから、それでもわが背に残っていられるか―――”
・・・とでも云いたげな、そんな馬からの挑戦を受けた婀陀那は、なんとしてもこの馬をものにするために、
狭い厩舎から飛び出して行ったのです。
それこそは、まさに『人馬一体』―――
これほど、一人の人間と一頭の馬に与えられる辞(ことば)は見つからなかったでしょう。
その速度―――流れ出る汗も、干上がらんばかりに迅く・・・
右に―――左に―――或いは飛び跳ね―――騎乗者の手綱捌きを見定めているかのようでした。
確かに良馬とは、騎乗する人間の性質(たち)を観るとはよく云ったもので、
このイキズキにしてみれば、それは最たるものでした。
それというのも、人間を飼い主とは認めていない・・・
そんな傲岸な態度の表れも、自分が背を預けた人の性質(たち)をよろしく見抜き、
自分は人の従うモノではない・・・と、自覚すらしていた―――
現在の馬主であるチカラ=左近=シノーラも、度々挑戦して、ようやくここ最近に手懐(てなず)けてきた―――
・・・もの、と、思ってきていたのに―――
しかしここにいた―――自分の背を預け、共に血生臭い戦場を疾駆出来うる“真の主”を・・・!!
それこそは、まさに戦場での取り回しでした―――
どんなときにどう対応できるか・・・文字通り『人馬一体』にならねば、絶命の危機すらあることを、
人も馬も、さも知るが如くに・・・だったのです。〕
To be continued・・・・