<第七十四章;十面埋伏>
≪一節;互いが待ち望んでいたもの≫
〔故郷より、カ・ルマからの侵攻があったのを聞き、
現在自分が仕えている国から、故郷の国に目標を移したのか―――との見解にいたったタケルは、
以前から協力を仰げるようになったヴェルノア公国軍と、その統率者をして、
この対処に当たろうとしていたのです。
そして今―――稀代の名将とも名高い婀陀那とともに、故郷の国の土を、
再び踏んでいたのでした。〕
ノ:おっ―――帰ってきたようだな・・・
タ:いかがです、婀陀那様―――中々の・・・
婀:うむ、中々の良馬じゃ、妾は気に入ったぞ。
チ:その・・・じゃじゃ馬を?
婀:・・・それはちと違いますなぁ。
この馬は、実に妾の意の赴くままに動いてくれた・・・
タ:それはあなた様が右に行きたいと―――そういうものではなく、
むしろイキズキが右に行きたいのと同時に、あなた様も右に行きたい・・・と。
婀:うむ、妾は常々このような良馬が見つからぬものかと思うていたが、
いや・・・こんなにも早くに会えることとなろうとはな。
〔人と馬は、意気揚々として戻ってきました。
互いが操り操られ―――と、云った風ではなく、互いの気持ちが同調しあう・・・と、云った具合に。
それゆえに、稀代の“はねっかえり”と、故国でも評判だった馬が、
これぞ自分が待ち望んでいた乗り手―――と云わんばかりに、性分も落ち着いていたのです。〕