≪二節;知恵のある馬≫
〔それから、内応の手続きを踏まえたということで、
自国に戻るノブシゲやチカラを見送った、タケルと婀陀那は・・・〕
婀:いや、それにしてもよい馬を得ました。
これはどのような辞(ことば)を並べても足りぬくらいじゃ。
タ:ははは―――そんなに喜ばれるとは、それでしたらもう少し早くに云い置くべきでしたかな。
・・・実は、そのイキズキに関しては、処分に困り果てていたのです。
婀:今、なんと―――?!! こんなによい馬を・・・処分??!
タ:それに当てはまるのは婀陀那様のみ―――
今までにこれの馬主であったワシの弟なんぞは、
“真の主にすら会ってもいないのに、処分されるのはたまらないから、仕方なく背を預けさせておいてやる―――”
・・・と、云った類のようなものでして、こう見えても実に計算高いやつなのです。
婀:真の主に・・・巡り合わせていない―――なるほどな・・・
それにしても、先ほどの方がそなたの弟君とな。
〔いかにも―――と、タケルが答えると、この馬“イキズキ”に関しての経歴をつらつらと述べるにいたったのです。
もともとイキズキは、タケルが騎乗をしているスルスミとは兄弟の駒で、
双方とも“天下に比類なき名馬中の名馬”として讃えられていたのですが、
その気性としては正反対―――
確かに、 駒 としての性能は、双方とも引けを取らないものがあったのですが、
いくら 兄弟 だとは云っても、それは雲泥の差・・・片方は従順で、片方は意固地―――
片方は戦場(いくさば)に出たところで乱れもしないのに、片方は血の臭いを嗅ぎ付けると豹変してしまう。
こんな・・・何もかも正反対の性格を持ち合わせているため、ラージャではその対処に苦慮していたのです。
しかし―――ここにきて、“真の主”に巡り会うこととなった駒は、
以前は決して人に懐(なつ)かぬ者の代表として扱われたのに、
これ以後よりは荒い気質も治まり、まさに人馬ともに比類なき“戦の申し子”とでも呼ぶべき活躍を見せることとなるのです。
その―――代表ともなるべき戦が、これから・・・
ラージャ国のサカキノ渓谷にて行われたのです。〕