<第七十五章;スティールメイト>
≪一節;一騎打ち≫
〔それこそは―――“闘神”と“魔神”の戦戟でした。
―――鼓膜を衝くような歪(いびつ)な音、―――互いの身を掠める武器と武器、
或る者は、これでやっと義姉の仇が討てる・・・と、思い、
少なからず熱くなっていたこともあったのでしょう。
片や、或る者は、予想以上に苦戦を強いられ、
人間風情が・・・と、思えなくもなかったことでしょう。
いづれにしても、決着はつかぬまま、一進一退の攻防が続き、
さすがの両雄にも疲れが見え始めた頃・・・〕
婀:(なんとも―――すさまじきものよ・・・
妾も、己の武には自信があるが・・・この二人のものは、明らかに別次元のものじゃ。
それに、確かあの者は<七魔将>・・・と?
―――するとなると、あのような実力の持ち主が、かの国にはあと六人はいると申すのか?!)
〔互いの実力は伯仲―――しかし、それを見た婀陀那は、次第に焦りを覚え始めました。
受けるならば、相手の腕を圧(へ)し折りそうな魔将の一撃を―――
それを苦もなく受け流し、または薄っすらと見え隠れする、盾のようなもので防ぎきる者・・・
そんな、彼らの闘争を目の当たりにしたとき、
どこか心の隅で、自分の武に満足をしていた婀陀那は、
宛(さなが)らにして、自身が井の中の蛙だったことを痛感したのです。
自分の武は―――優れているとは云え、それは所詮 人間 の内でのもの・・・
こんな化け物じみた者と、亘り合えるまではできようはずもない・・・
浅かった―――・・・
カ・ルマと鉾を交わらせるということは、云い換えるならば、こんな化け物と闘うということ・・・
このままではまづい―――早急に、練兵の制度を一から見直し、
全体の兵の程度というものを上げなければ!!
とどのつまり、婀陀那の“焦り”というものはそこにありました。
今ここに、化け物じみた“魔将”を相手に、まさに神がかり的な強靭さを発揮させるタケル・・・
しかし、それは彼ならではのこと―――
果たして婀陀那自身や、彼女以外の武将が彼のようになれるか―――
それは婀陀那自身の言葉の中に集約されていたわけであり。
やはり、化け物じみた国の軍を相手にするには、自分たちが率いる軍の兵すべてが、
神がかり的な強靭さを発揮して初めて、対等な・・・同じ土俵の上で戦えるものと実感していたのです。
そして―――この、永きに亘って争いあった血戦も、ようやく終息に向かい・・・〕