<第七十六章;大いなる名の下に>

 

≪一節;突如として舞い降りるもの≫

 

 

〔ヒョウシュウ5年―――その事態は突如として起こりました。〕

 

――〜ガタッ☆〜――

 

吏;あっ―――ヒョウ様・・・

 

――きゃああっ!――

 

吏;だ、誰か・・・ヒョウ様が―――国王様が!!

 

 

〔この国王が王位に就いて以来、一日・・・いえ、一画たりとて欠かすことのなかった、

酒池肉林の宴のさなかに―――

突如として悶絶しながら倒れた、フ国王・ヒョウ・・・

 

しかし―――“突如として〜”という表現の仕方は、あまり相応しくはなく、

むしろ“当然”といったほうが妥当ではなかったでしょうか。

 

それというのも、以前にもヒョウの身体の弱さには触れていたのですが、

それがいよいよもって限界に来ており、表面上に出てきたものと思われるからです。

 

ただ―――5年間という間、続いたのもある意味奇蹟と云うべきか、

人体の神秘も云うべきか・・・特筆すべき点はあったように思われるのです。

 

 

―――ともあれ、国家の一大事には変わりはなく、急いで臨時の懇談が設けられるのですが・・・〕

 

 

婀:――――・・・。

イ:・・・なにも、出ませんか―――

タ:仕方がない―――と、云えばそれまでですが、

  第一ワシらには、国策を論じれる知恵はあっても、こと人体のことに関しては・・・

 

婀:―――無力・・・一言で云うなれば、今の妾たちは非常に無力じゃ。

  一つの国家の・・・それも妾たちの君主である方を、お救いできぬのは―――

 

 

〔そこで特別に設けられた懇談では、誰しもが良案を出せずにいました・・・。

国を救う手立てを知る、イセリアもタケルも、ましてや婀陀那でさえも―――・・・

人の命を救う術までは持ち合わせてはいなかったのです。

 

そう・・・ここに、国家の大尽(だいじん)の命は、典医の手に委ねられたのです・・・

―――が・・・〕

 

 

リ:いかがいたした―――典医長殿。

  ヒョウ殿は・・・フ国王である方の容態は、大丈夫なのですか??

 

医:―――まこと残念ながら・・・小生にしてみれば、

  今、このときに、生を紡がれていられることのほうが不思議なくらいです!

 

  あのような無理を5年間も続けられて、臓腑はボロ布のようになっていなさる・・・

  この方が18年間サナトリウムにて、治療に専念されてきたというのに―――・・・

 

リ:そん―――な・・・

  では!では・・・ヒョウ殿は、もはや目を開けることはないと申されるのか?!

 

医:・・・例え、どんな名医であろうとも、再びこの方を立ち上がらせることは出来ませんでしょう・・・。

 

 

〔国王の寝室で、王の容態を慮(おもんばか)っていた者からの、酷とも云える一言・・・

外見上では、平生とは見えていても、その内部―――

いわゆる臓腑の類(たぐい)は、使い古されたボロ布のように疲弊しているというのです。

 

無理が祟った―――生来より臓腑が弱く、それゆえ人生の大半をサナトリウムにて過ごした、

そこでほとんど治りかけていたというのに・・・・

 

新しく国王を継いだことにより、その当初から酒池肉林の大宴会―――

そこには・・・人々から敬われることはなくとも、疎ましがられることは追々にしてあった―――

 

そこでストレスなどの悪しきモノが溜まってしまい、やがて病巣として大成してしまった・・・

この国の典医長―――前王・ショウの代より、国王の身体を診てきた者は、

再三にわたる注意を促しても、一向に止まる気配を見せない患者に匙を投げ、

こうして、急激にフ国には“滅亡”という暗雲が垂れ込めてきたわけなのですが・・・

 

ここに来て―――大后(たいごう)であるリジュは、こういうときにこそある者の助言を求めようとしたのです。

 

そう―――大傅であり、諫議大夫であるアヱカに・・・〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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