<第七十七章;時代(とき)の道標(みちしるべ)(壱)>
≪一節;冗談交じりに・・・≫
〔大国フの頂きにある王は、危篤の淵から脱し、
今では以前と変わらない姿を、見舞いに来ている者達の前に見せていました。〕
客:陛下―――もうお身体のほうはよろしいのですか。
ヒ:はははは―――見ての通りよ。
いかな死神とは云えども、私の淫蕩なサマに呆れ返って、魂を持ち帰らなかったものと見える。
なに、安心したまえ、全快復でもしたなら、すぐにでも祝いの宴を開くつもりだ。
〔心配する見舞い客をよそに、以前と変わらぬ気概を振舞って見せる愁王。
しかし、彼の“余命の宣告”を知っていた者達は、
そんな彼の今の姿が、痛ましく映っていたものだったのです。
その者達とは、太后のリジュと大傅のアヱカ・・・
この二人は、見舞い客が王の病室に来ると、聞こえないフリをしたり、
人知れずその場からいなくなったりもしていたのです。
なぜならば・・・この病弱の王の余命が、あと一年もつかもたないか―――
と、云うことを知ってしまっていたのだから。
そのことを知っておきながら、健気なるヒョウの姿を見ると、胸が詰まる思いがし、
油断すれば涕が零れ落ちそうになってしまいそうになる・・・
今、そんなことをしてしまうと、きた見舞い客に不審に捉われてしまう―――
そのことを悟られまいと、わざと聞こえないフリなどをして無関心を装ったり、
人知れず部屋から退出していたのです。
それはそれとして―――見舞い客と談笑をしている最中(さなか)にも、
かかりつけの医師が問診に訪れ・・・〕
へ:ああ―――今日は幾分かお元気そうですね、いい傾向だ。
ヒ:おお、先生―――私がこの寝台より起きて、またいつものように宴を開けるようになれるのはいつになるのかな。
へ:これはこれは―――私は国王様の病巣を取り除いたものとばかり思っていましたが、
また新たな病が発生(はっしょう)したものと見えますな。
ア:・・・――――これ、典医長。
ヒ:私の・・・また新たなる病―――?
へ:ええ、この 宴会を開こうとする病 は、厄介なものでして、
どんなにも優れた名医でも、またどんな病を治すと云われる妙薬でも治せないというものですからな。
ヒ:は・・・ははは―――!
な、何だ、いやそういうことか! わははは――――!!
私も游びというものを覚えてからは、寝たきりというものがどうにも性が合わなくてな!!
そういうことなら、早くにでも治さねば―――
・・・と、いうことで、これから先生の診療を受けねばならん、
新たな宴の開催はまた後日・・・と、云うことで、な。
〔このたび典医長に就いたヘライトスの意外な発言に、ヒョウはもとよりアヱカも内心危惧を覚えました。
それというのも、あの“余命”・・・の宣告をした医師こそ、このヘライトス某という者であり、
また王を死の淵から救ったのもこの者であった・・・
それを―――また新たなる病の発生(はっしょう)という言に、半ば戸惑いを隠せなかったのです。〕