≪三節;真言≫
〔それはそれとして―――特効薬ではないにしても、幾分か生命を保たせるための注射・・・
<フルオロカーボン活性液>を接種し終えたヒョウは―――〕
ヒ:アヱカさん・・・お義母上・・・これから、私の云うことによく耳を傾けて欲しい―――
私は・・・愚鈍にして劣悪なる王だ―――そのような者が、王位に就いてからは国政が傾く一方。
ただ、その速度が緩やかであるのは、この国には婀陀那さんやアヱカさんのような、優秀な官がいてくれたから・・・
だが―――今は、悪い罰がこのような象(かたち)で現れてしまっている。
しかし、私はそれが妥当だとさえ思っている―――・・・
ア:ヒョウ・・・様―――
リ:――――・・・。
ヒ:けれど・・・そんな私でも、世の風潮というものは感じ取れている。
アヱカさん―――いえ・・・“古(いにし)えの皇”よ、これからはあなたの “治” の力が必要なのです。
けれども―――この国にはあと一人、王として継ぐことを許されている者がいます・・・
私の・・・この劣悪なる王の座を、義弟に継がせなければならないのは、はなはだ遺憾ですが、
義弟を―――ホウのことを・・・よろしくお頼みいたします・・・。
リ:―――ヒョウ殿? 今・・・なんと??
“古(いにし)えの皇”・・・女禍様が―――どうして今の世に・・・
ア:そ、そうですとも―――ヒョウ様・・・
今の言(げん)ばかりは、例え身重の苦しみからくる冗談ごとで済まされは―――・・・
ヒ:―――もういいでしょう・・・女禍様。
あなたは、余命幾許(よめいいくばく)かもない者に対しても、偽りを述べることの出来ない方のはずだ・・・
ですから・・・もう―――よろしいのではないのですか・・・
ア:ヒョウ・・・殿―――
〔ヒョウは、自身の生命がここ近年においてか細くなってきていることもあることから、
精神体<アストラル・バディ>となっている女禍様のことが見えているのでした。
しかし・・・あと残りの半生が、一年余りということを悟っていた者は、
自身の最後の頼みとして、これから自分の跡目を継ぐ義理の弟のことを、よろしく頼むこととしたのです。
けれども、アヱカはそのことをよしとはしませんでした。
とはいえ、ひとまづ否定はしたものの、王の・・・それも余命があまり長くない者からの嘆願めいた言葉に、
口をつぐまざるを得なくなり、ついにはそのことを聞き届けてしまったのです。
こうして―――半ば遺言めいたことを、リジュとアヱカの二人に話し終えたヒョウは、
未だ幼いホウに云い聞かせておくことがあるから・・・と、
リジュとアヱカを部屋の外へと退出させたのです。
すると、そこで―――・・・〕
リ:あの・・・アヱカ殿―――?!
ア:・・・仕方がない―――仕方がないとはいえ、こうするより他はなかった・・・
けれど、本当にそうだったのだろうか―――?
ただ、私は再びこの世に甦って、遙かなる過去に遣り残してきたことの清算をしようとしているに過ぎないんだ・・・
それは、一人の人間として、またどこかの国の民であったとしても成し遂げられることでもあるんだ。
それを・・・こんなにも大きな国の官に・・・しかも国の中心を担える役職に就かせてもらっている。
リジュ―――確かに私は、あなたたちが産声を上げるよりも、
それよりも、もっと遙かな過去に<シャクラディア>という帝国の 皇 だった時期もある。
今でこそ“仁君”と呼ばれはしていても、実質上は現在の諸侯たちと変わらないことをやってきたに過ぎないんだ。
それを―――そんな者が・・・機会が二度扉を叩いてもいいものなのだろうか?
〔アヱカは―――いえ・・・“古(いにし)えの皇”は、ついに来たるべきときが来てしまったことを嘆いていました・・・。
遙かなる過去に、自身が遣り残してきた事業を、その清算をするべく甦ってきた―――
けれども、そのことは一介の庶民であっても成し遂げられることから、
“機会が二度”・・・そう、またも国の頂点に立ち、ある勢力に拮抗していくことの宿命を、
痛々しくも感じていたのです。〕