≪五節;不意に訪れる悪夢≫
〔ところ一方変わり―――ウェオブリの一室では、
王不在のままでの御前会議が、執り行われている最中でした。〕
イ:―――では、以上で会議を閉会いたします。
婀陀那様は、陛下へのご報告を、よろしくお頼み申し上げます。
婀:うん・・・うむ―――
〔朝議も滞りなく終了し、この日に決定された議事を、フ国の王であるヒョウの下へと持っていく―――
と、云うのは、もうすでにこの国の王という名が、形ばかりのものになりつつあることを物語っていたのです。
でも、決してそのことを諸官たちは口にすることはありませんでした。
なぜならば、尚書令であるイセリアや録尚書事である婀陀那の目が、厳しく光っていたのですから・・・
そして、そのときも、今回の議事録を奏上すべく、
婀陀那がヒョウの下へと持っていくのですが―――・・・
婀陀那は―――ここのところヒョウのことが気がかりでなりませんでした・・・。
なにしろ、現フ国王であるヒョウとは、こうなる以前にも交流していた時期もあり、
下手をすると、元々この国の官僚である者達よりも、彼のことに詳しかった―――
元々のヒョウとは、まったく違う性分―――それを、たった五年・・・
いや、もう五年と云えるべき歳月を過ごしてきたことに、人知れず心配をしていたのです。
それを―――・・・〕
婀:―――失礼いたします。
ホ:あっ―――録尚書事さま・・・
婀:おや、ホウ殿もお見舞いに来ておられたのですかな。
そういえば、ヒョウ殿も心なしか顔色(がんしょく)が優れているように見えまする・・・。
ヒ:婀陀那さん、そんなお戯れ―――うっ! ごほっ!ごぼぉっ!!
婀:(ああっ!!)ヒ、ヒョウ殿〜―――!!
ホ:に、義兄さまぁ〜―――!!
〔あと・・・一年余り―――彼の生命の猶予はあるはずでした・・・。
けれど、自らの役目を終えた―――と、云う、安心感からだったのか、
気を許した途端、咳(せき)に咽(む)せ、義弟の前で・・・議事録を持ってきた幼馴染みの前で・・・
フ国王は、その口より血を吐いてしまったのです。〕