≪六節;公主の涕≫
〔そして、国王再び重篤に陥る―――の報は、瞬くの間に典医長の耳にも入り、
廓(くるわ)を急ぐ者達が―――・・・〕
へ:ソシアル、急いで強心剤を―――!
ソ:はいっ―――!!
へ:それとグリスを・・・超音波を使って、心当たりのある部位を徹底的に覗きます!!
ソ:はいっ―――!!
〔すでにそこに集まっていた者達・・・太后も大傅も録尚書事も、彼の義弟も・・・
悲しみのあまり涕に暮れていました。
あと一年猶予はあるはずだったのに―――
その思いばかりが、彼らの胸のうちにはあったことでしょう・・・
けれども、ヘライトスのほうでも、国王の容態は全快復している―――とまではしていなかったのです。
それに、最低でも一年持つかどうか・・・としていたのも、
施術終了当時の状態のままで―――ということでもあったのです。
そして・・・医師とその助手は、施術当初には見つけることの出来なかった、
新たなる患部を見つけてしまい―――・・・〕
へ:―――ダメだ・・・
リ:えっ―――??!
へ:・・・ダメです―――もう手の施しようがありません・・・。
ア:なぜ? なぜそんなことを―――
へ:やはり・・・病巣は転移していましたよ―――
それも、レントゲンでは判りにくい部分・・・腎臓やすい臓にね!!
ア:なっ―――! あぁ・・・
へ:しかも、この度摘出した胃と同じく身体を蝕んでいたと見える・・・
これでは、手術を行うとなると、“死んでくれ”と云っているようなものだ。
婀:そんな・・・なぜそのような惨い事を云われる―――!!
へ:私だってね! 一介の医者なんです!
医者という者は、患者を治すことはしても、死ぬことに手を貸したりするようなことは、断じてありえない!
いえ、決してあってはならないのです―――!!
婀:・・・だったらば、もうなにもしないまま―――
最後の足掻きをすることも許されぬまま・・・ヒョウ殿は生を潰えるしかないというのか―――(ポロポロ〜・・)
ア:・・・・・。
〔新たなる病巣は発見されました―――
それも、最も見つかりにくく、よほどの細心の注意を払わないと見つかりにくいともされ、
最も治りにくいともされている部位―――腎臓とすい臓・・・それだったのです。
そのことを知ると、アヱカがまづ落胆してしまいました。
それは、その部位に腫瘍があると、助からないということを知っているかのように―――
でも、婀陀那は執拗に食い下がりました。
それも、敵国ではない、“病”に最後の抵抗を試みるを許されない―――と、云った表現で・・・
この悲痛な彼女の思いは、そこにいた典医長に、その助手に、
“古(いにし)えの皇”に・・・強く響いたのでした。
そして、ある意を決した者の口からは―――・・・〕