<第七十八章;時代(とき)の道標(みちしるべ)(弐)>
≪一節;哀しみに暮れる者≫
〔その人物は、幼き頃よりよく知るこの国の王が、今まさに死の淵に立たされていることに、
大いなる哀しみと衝撃に駆られていました。
そして、王の看護をよくしてもらっているかの方からの一言に、半ば救われた気持ちになりながら、
その部屋から足早に立ち去ったものなのでした。
その人物とは・・・婀陀那なのでした。
彼女は、病弱なヒョウが危篤状態にあるのを、自分の身が切られるような思いで見つめ、
もし変わることが出来るなら、自分が変わってやりたい・・・と、さえ願ってもいたのです。
それでは・・・そんな深い哀しみに暮れていた彼女は、今どこに・・・
それは―――ウェオブリの城にある庭園の一席にて、
両手で顔を覆い隠しながら、粛々と涕を流していたのでした。〕
婀:なぜ・・・どうして・・・おやじ殿に続き、ヒョウ殿までが妾の前から去ってしまうのじゃ―――・・・
・・・元はと云えば、妾がこの国に来た頃から・・・
―――ならば、その因を作ったのは妾と申すか?!
では・・・妾は、この国の王族にとって仇なす者・・・そうだと申すのか―――?!
〔自分がこの国に来た頃より、前王に続いて現国王までもが死の床に就かんとしている・・・
そのことを、就中(なかんずく)自分の責任のように感じ、自暴自棄にもなりかかっていた婀陀那・・・
けれども、それは勘違いも甚だしかったのです。
なぜならば、前王・ショウは寿命にて天寿を全うしており、
ヒョウのほうでも、今まで生を紡げてこられたのは、ある方の努力の賜物でもあったのだから・・・
―――だとしても、婀陀那はこの一連のことを自分の責任のように感じ、
ただ悲観に暮れていたのです。〕