≪二節;慕愁の情≫
〔ところが―――・・・〕
誰:―――公主様・・・
婀:・・・・―――――
――〜 うわぁああ〜〜っ・・・!! 〜――
〔何者かが、自分を呼ぶ声がした・・・
そのことに、面を上げて振り向いてみれば、自分を呼んだ者とは タケル なのでした。
なぜ彼がここに―――・・・?
その疑問よりも前(さき)に、婀陀那はその男の胸に顔をうずめ、
張り裂けんばかりに哭いたのです。
けれども・・・本当にどうして彼がここに―――?
それは・・・リジュもホウ王子も、婀陀那のあとを追って退室をしたのですが、
追っていた方の背中が、あまりにも寂しさを漂わせていたのに忍びなく思い、
するとそんなところへ、偶然タケルと出くわし、どうにか婀陀那の慰め手となってもらえないか―――との由を聞き、
この一角に現れていた・・・ということなのです。
それにしても―――自分が声をかけたのと同時に振り向き、即座に胸に顔をうずめて慟哭したことに、
タケルは驚きを禁じ得ませんでした・・・。
“公主”と云えど、一人の人間―――“勇猛な武人”の前に、一人の女性・・・
そのことを大いに感じながら・・・
そして、一通り泣き終わった婀陀那は―――〕
婀:・・・申し訳ない―――少し・・・みっともないところを見せてしまいまして・・・。
タ:いえ・・・逆に安心をいたしました。
あなた様も、周囲の者達から畏れられている以上に、存外に可愛いところもあるものよ―――と・・・
婀:妾が―――“可愛い”・・・・
タ:ああ、いえ―――これは失礼を・・・
少し妥当ではございませんでしたでしょうか。
婀:ああ―――うむ・・・真もって、不当に過ぎる・・・
わ、妾を誰と心得るか―――揶揄(からか)うのは・・・よしなされ。
タ:これは・・・真に、申し訳ございませんでした。
いや―――実を申し上げると、婀陀那様が朝議に現れぬと、どうにもまとまりがつきませんようで、
そこで不肖のワシが、お迎えにあがった次第なのですが―――・・・
・・・どうやら、そのご様子では、国王様は明日をも知れぬ容態―――
そう捉えてよろしいのですな・・・
婀:――――・・・。(コク)
タ:それに、今のあなた様では、ご公務にも支障が出ますゆえに、
ここはご自分の屋敷に戻られて、休養をとられたほうがよろしいかと存じますが・・・
―――では、早速そのように・・・
〔タケルは・・・こういったときには、他人の事情には立ち入らざるべきであることを、よく心得ていました。
かつては、自分がそのうちの一人にもなったこともあるのだから・・・
それゆえ、気の済むまで休養をした上で、皆の前に姿を現せられる状態に回復するように説得し、
その場から踵(きびす)を返そうとしたのですが―――・・・〕
婀:―――待って・・・
タ:――――公主・・・・
婀:置いて・・・行かないで・・・ほんの少しの間だけでかまわない―――だから・・・
〔“公主”は、本当は寂しがり屋でもありました・・・。
これは、上に立つ者の宿命と云っても過言ではないのでしょうが―――
いわゆる、彼女の周囲には、信頼出来る者が少なくもあったのです。
それが・・・『夜ノ街』での数年間や―――フ国に参入して、王の配下として勤めるようになってからは、
しばらくその孤独感は紛らわせていたのですが・・・
ここ最近の、彼女が昔より知るフ国王族の方々の死に目に遭うことにより、
この国においての絆が急激に薄まりつつあることに、危機感が募り始めていたのかも知れません。
だから―――自分の寂しさを、少しでも紛らわせてくれるかもしれない、
この漢(おとこ)の・・・背中から抱きついていたのでした。〕