≪五節;エニシのチカラ≫

 

 

〔男と―――女が―――背後から抱き合いながら、しばらくが経った頃・・・

空は急に湿り気を帯び、ぽつり―――ぽつり―――と、人肌には冷たく感じるものを降らせ始めだしたのです。

 

当初、路傍の石畳や植樹の葉を潤す程度だった雨脚は、

次第にその脚を強めて行き―――・・・

それが、公主の泪雨ではないか・・・と、見間違わんばかりに、

周囲の風景を濡らしたのです。

 

 

女は―――自身が知る馴染みの顔が、この世から去っていくことが、たまらなく寂しくなっていました。

 

彼女が愛し、また慕う人間は、その親密度が増すほど、その期間が短くなっていた・・・

それゆえに、もしかすると自分は他人を愛してはいけないのではないか・・・とさえ、気負わされる時すらあったようで、

今の婀陀那は、そのことが顕著に現れていたとしてもおかしくはなかったことでしょう。

 

 

男は―――過去に慕った女(ひと)が、実際の肉親ではなく、

また、その女(ひと)自身が身を挺してくれたおかげで、現在の自分が在ることを痛責の念で抱いており、

これからは異性は愛すまい―――としていました・・・。

 

けれども、『縁』という現象は、まこと不可思議なもので、

互いが異性を愛することを拒み始めた頃から、この二人を惹きつけさせ始め、

時には互いに利用しあい・・・時には助け合い、時には剣を交じり合わせながら・・・・

互いがどうあるのかを確かめているようにも見えました。

 

そして・・・今、この瞬間―――その女(ひと)の、溜まりに溜まっていた想いが破裂し、

男を背後から抱きしめながら、微たりとも動かなかったのです。

 

男は・・・これから遣り残した仕事を片付けねば―――と、云いかけました・・・

それを女は―――こんな自分を・・・惨めな自分を置き去りに出来るのか・・・と、質(ただ)しました。

無論、そんなことが出来るはずもなかった男は、その場に佇むしかなかったのですが―――

しかし、このままの自分たちを、他の誰かが見るとあらぬ誤解が生じるものとし、

ある提案を申し出るのでした―――・・・〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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