≪三節:姫君の涕(弐)≫

 

ア:あの・・・婀陀那さん? ヘライトスさんは隣の部屋を使いなさい―――と・・・

婀:・・・姫君―――実は、あなた様に一つ云っておかねばならぬことがあるのです・・・。

 

 

〔ウェオブリ城庭園―――中庭にある池の浮島に、設けられた楼閣・・・

そこで婀陀那は、今回すでにアヱカを除く諸官たちに伝えたことを、

あのときよりかは詳らかにして語ったのです。

 

そう・・・あのときには、その口より語られなかった、婀陀那の婚約の相手を―――・・・〕

 

 

婀:・・・急な思い立ちで、甚だ恐縮ではあるのですが。

 

  ―――この度、妾はある方と成婚することを、皆の前で公表いたしました。

 

ア:まあ―――それはおめでとうございます。

  婀陀那さんもお年頃ですものね・・・。

  器量もよろしくて、とても利発で―――あなた様を娶(めと)られる方・・・って、倖せ者ですわね。(ニコ)

 

 

〔まづは定石に倣って、自分がこの度成婚する旨を、そこで申し述べた婀陀那・・・

 

すると―――彼女は胸の奥がどこか痛くなりました・・・。

 

他人の慶事(よろこびごと)を、まるで我が事のように慶んでくれる、その屈託のない笑顔・・・

 

この方は、今は何も知らない・・・けれど、知らねばならない―――

 

自分が・・・このほど、成婚しようとする相手を・・・

 

そして、そのことを、少し間を置いて話したとき―――〕

 

 

ア:・・・え―――? え??!

  ・・・今・・・なんと―――??

 

 

〔“やはり”―――と、云おうか・・・当然と云うべきか・・・

 

初めはにこやかな相好(そうごう)を崩さないでいたのに・・・

そのことを知るなり、驚きのあまりに大きく目を見張り、声も心莫しか震えてきた―――と、感じた・・・

その次の瞬間、姫君の真紅の眸の奥が大きく揺れ、

大粒の―――真珠のような涕が、ポロポロと零れ落ちてきたのです・・・。〕

 

 

ア:そん―――な・・・(ポロ・・・)タ、タケル―――さん?(ポロポロポロ)

  (ヨロ・・ッ)・・・えっ―――? あ・・・っ―――(ガク〜)

 

  ・・・そ―――そうなの・・・ですか・・・婀陀那さん―――と、タケル・・・さん・・が―――・・・ご成婚・・・

 

  あ、あら―――どうしたのでしょう・・・こんなにも喜ばしいことなのに・・・涕が・・・(ポロポロポロ)

 

 

婀:・・・姫―――

 

 

ア:・・・すみません―――少し、泣いてよろしいでしょうか・・・

 

婀:・・・・はい―――

 

 

〔やはり―――この方々は主従などではなかった・・・。

 

そこにいなかったから―――と、五度も草庵に自らの足を運ばせてまでの接遇。

その入れ込みようは、主従でなければ、他にどんな表現の仕様があっただろうか・・・

 

多くは―――他人前(ひとまえ)では、そのことは激しく否定する・・・だろうが、

今回の件に関しては、そのことを否定しづらくなるまでに、反応を示した・・・

 

この二人こそは―――戀慕う仲・・・・

 

判りきっていた―――判りきっていたこととはいえ・・・なんと自分は、惨いことをしてしまったのだろう・・・

 

今の婀陀那には、そのことが去来交錯していたに違いありません。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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