≪四節;お為ごかし≫
〔そして―――ひとしきり泣き終え、ひと心地ついたアヱカに・・・〕
婀:―――申し訳ございませぬ・・・姫君。
ア:・・・・。
・・・なにをおかしなことを―――謝らないでください・・・。
今、あなた様に謝られたら、わたくしは―――・・・
婀:・・・姫君―――
ア:・・・それに、あなた様のほうでも、よほどの決心だったのでございましょう。
婀:―――はい、それもありまする。
実は―――今回のことは、ある策の一環なのでございます。
ア:・・“策”? 一体なんの―――
婀:まづ、此度のことを思いついた背景には、
ヒョウ殿の危篤にさいし、簒奪を目論まんとする不貞の輩が蔓延(はびこ)りだしまして・・・
しかも、それらはこの国だけにとどまらず、妾の母国であるヴェルノアでも―――
ア:あなた様の―――??
婀:―――はい。
ヴェルノアの公主である妾本人がこの国にいるというのに、身代わり役である“影”にそのことを打診してきたことが、
ここ最近で発覚いたしましてな。
間抜けに過ぎることではございますが、またこのような愚かなことを真似る輩が出ないとも限りませぬ。
それゆえに、今回はタケル殿の協力を得て、『政略婚』という象(かたち)をとらせていただいたのです。
ア:『政略婚』・・・そういえば、婀陀那さんはヴェルノアで、タケルさんはラージャの・・・
婀:―――いかにも。
大陸でもフ国の東西両隣の=列強=が、この国にて結ばれれば、いかがなことと存じましょう。
つまりはそういうことなのです。
なにとぞ不当なこととはお感じでありましょうが、ここは一つ堪(こら)えてくださりますよう―――
〔“策略”の一つ―――だと、その人は云いました。
確かに、そのことは嘘なのではないのでしょうが、アヱカも幼いままではないので、
そのことは二の次である―――と、感じずにはいられませんでした。
この方も・・・わたくしと同じ方を好いていらっしゃる―――
そのことを誤魔化すかのように、“策”の一つとおっしゃられたのも、わたくしのことを気遣ってくれているから・・・
今は―――時代は、混迷の中心に投げ出されつつある・・・
ここは、私事のような“小事”より、国家のため―――という、“大事”を採らなければならないとき・・・
わたくし一人が我儘(わがまま)を申していては、まとまるものもまとまらなくなる―――
けれど―――・・・
アヱカの胸中には、様々なことが去来しつつあったでしょう。
けれども、やはりそこは、もう我儘(わがまま)を述べたりする年頃でもないので、
堪(こら)え時ではあったようです。〕