≪七節;口惜しさ余って―――≫
〔一方―――リリアは、その不届きなヤツを見つけるために、廓を足早に駆けていました・・・
するとそこへ―――〕
リ:(あっ、いた―――)
・・・ちょっと、あんた―――
タ:うん? なんでしょう―――
リ:(スラリ〜☆)自分の剣を抜いて―――決闘よ!
タ:ふぅむ・・・一体何の因縁で、そうしなければならないのか―――
ワシにしてみれば、トンと見当がつきにくいのだが・・・
それに・・・あなたは女性なのだろう、およしなさい―――バカな真似は。
リ:(くうぅ〜っ!)―――云うなぁ〜ッ!!
〔見つけた―――・・・それに、よく見れば、図体ばかりのでかい“木偶の坊”じゃない。
こんなヤツを・・・婀陀那様の伴侶とは認めない―――!!
詰まる話、リリアの頭の中には、もうそれしかありませんでした。
自分の慕う人を、自分の下から奪っていった憎いヤツ・・・
ただ、その憎さに駆られ、それが例え殿中であるにもかかわらず、
リリアは己れの佩剣を抜いてしまったのです。
ところが―――・・・
この男は、リリアの仲間であるイセリア以上に涼しい顔をしての受け答え・・・
それに、一太刀浴びせようとも、その巨躯からは及びもつかないほどの素早い身のこなしに、
リリアは矢継ぎ早に、二の太刀・三の太刀―――と、浴びせて行ったのです。
―――ところが・・・〕
リ:・・・さあ、どうしたの―――壁に追い詰めたわよ・・・
タ:ふむ、これは是非も莫い・・・本来ならば、婦女子相手に―――
リ:この・・・っ!云うな―――!!
私は女性である前に、一介の剣士であり・・・戦士だ!!
――デュランダル・・・我が闘気を、その剣身に宿せ!!――
タ:“呪”―――本気ですか・・・
それに、気遣ったつもりが、そなたに関しては不当に映ったようだ・・・
ならば、ワシとしても全力でお答えせねば、それこそ非礼に当たるというもの・・・
〜・・ゆらぁ・・〜
リ:(この気―――? この男・・・)・・・お覚悟―――!!
〔息をつかせぬ剣撃に、すでに後がなくなったか―――
壁際に追い詰められたタケルは、とうとう相手をせざるをえなくなり・・・
けれど、そこで紡がれた言葉に、“女”だからと侮辱された気分になったリリアは、
自己の能力を聖剣に託せる御業・・・“呪”を唱え、発動させたのです。
そのことを、リリアの“本気”と捉えたタケルは、ついに全力を開放せざるを得なくなった・・・
そこで、リリアは見ました―――熟達者にしか見えない“闘気”<オーラ>というものを・・・
それも、ほんの僅かなものではなく、自分でさえも圧倒しそうなほどに・・・!!
それでも、リリアは果敢に挑んだのですが―――〕
リ:てゃぁあああっ―――!!
タ:むんっ―――!!
――〜 パ キキィィン 〜――
リ:あ、うぅわァッ―――!!(ドザザ―――・・・)
〔リリアの聖剣<デュランダル>が、相手の身に届く・・・その前に―――
何か、薄い光の幕のようなものに遮られ、リリアはそれにはじき返されました。
なぜ―――・・・あの男は、未だ自分の得物は見せていないというのに・・・
ダメージを追ったのは私のほう―――??
つまるところ、リリアは知りませんでした・・・。
その男―――タケルが、 緋刀・貮漣 の遣い手にして、“清廉の騎士”であることを・・・
それゆえに、今、自分がはじき返されたスキルが、〜晄盾〜であることなど、知る由さえなかったのです。〕
リ:く・・・クソッ―――今一度・・・!! やあああっ―――!!
〔無様には転倒しなかったものの、一度崩した体制を整えると、再びリリアはタケルに向かっていきました。
けれど・・・今度は、あの薄い光の幕のようなものは現れずに、
自分の懐に潜り込まれたあと、剣の柄頭をつかまれて、そこから押さえ込まれてしまったのです。〕
リ:クソっ・・・この―――この・・・っ!!
―― パッ ――
リ:え・・・あれ?
タ:―――さあ、どうした・・・もう一度だ。
〔ところが・・・どうしたことか、このまま衛兵に突き出せば、罪は免れぬところだったのに・・・
それであるにもかかわらず、組み手を解き―――もう一度かかってくるよう促された・・・
なぜ―――?
私は佩剣を抜いてかかった―――と、いうのに、この男は自分の得物すら見せず、この私をあしらってしまった・・・
しかも今のは―――・・・もしかすると、この私を庇って・・・?
その男は、リリアと対峙したことを、あたかも戯れの一つであるかのように振舞ったのです。〕