<第八章;いと小さき者>
≪第一節;善意≫
〔自分の店で売っているモノを不意に落とされてしまい、それを咎めるか・・・・と、思われた、「キリエ堂」の若い店主代理。
しかし、彼女は自分の鱗より造り出した装飾品が、姫君が持っているという「女禍の魂」に反応したという事を知り、
それを咎めるどころか、逆に畏れ慄(おのの)いてしまい、またその素振りを誤魔化す為に、誤解を招く言い訳をしてしまったのです。
でも、姫君はそれを受け取りませんでした・・・・。
お互い同士が、まだそんなに知りもしないのに・・・しかも、自分が相手に対して失礼にあたるようなことをしてしまったのに、
逆に親切丁寧になった事に、不信感を募らせたのです。
そして―――・・・それから数日が経った、ある日の出来事・・・・女頭領の執務部屋にて、何かの提案をする姫君が見受けられるようです。〕
婀:ほぅ―――・・・なんと、ここの住民達に「炊き出し」をして差し上げたい・・・と、こう申すのですか。
ア:はい・・・日頃から、お世話になってばかりですので・・・
わたくしも、何か一つお役に立てれば・・・と。
ナ:へぇ〜〜――しかし、まぁ・・・さすがと申しますか・・・
紫:アヱカ様・・・・ならですよね、そんな発想。
ナ:なんだったらさ、あたしらも手伝ってあげましょうか??
ア:え? で・・・でも、ナオミさんは鑑定士としてのお仕事がおありなのでは・・・
ナ:あぁ―――・・・あたしの仕事なんてさ、ここの者達が分捕ってきたモノに、真贋の判定をつけるだけのものだからさ、そう大した事じゃあないんだよ。
婀:ナオミ殿―――・・・「大した事はない」とは、これは聞き捨てになりませんなぁ。
なんでしたら、即解任してやってもよいのじゃぞ〜?
ナ:あっ・・・あれぇ? 聞こえちゃってましたか?? ヤだなぁ―――・・・
ア:まあっ、お二人ったら・・・
ナ:それで―――・・・どうなんです?
ア:えぇ―――・・・そうですわね、では、よろしくお願いいたします。
ナ:へへ―――やぁりぃ!〜☆
紫:それでは・・・不肖私めも、参加させていただきます。
ア:えっ―――? 紫苑さんも?
紫:はい・・・一応私は、あなた様のお世話を、仰せ付かっている者・・・ですので。
ア:そうですか・・・・ありがとうございます・・・。
婀:ふふふ・・・・妾も、手伝って差し上げたいもの・・・なのじゃが、
生憎と、首魁としての仕事も手一杯なものでしてな、いや、実に残念ではあることよ・・・。
ア:いえ・・・第一にこの事は、わたくしが言い出した事なのですし・・・
それに・・・婀陀那さんも、組織の上に立つお方なのですから・・・余りご無理はなさらないで下さい・・・。
婀:・・・フ―――姫君がそういわれるのであれば、いと仕方なき事よ・・・。
ア:それでは―――材料の買出しに行って参りますね。
ナ:さ・て・と――――あたしは、ここの厨房に行って準備でもしてますね・・・・
紫:それでは、私も―――・・・
婀:―――待て、紫苑。
紫:(え??) は―――はい。
済みません、用が済み次第、後で追いつきますので・・・
ア:はい、分かりました――――
〔さて―――姫君がなした提案とは・・・・
日頃少なからずお世話になっているという、夜ノ街の住民達(早い話が、盗賊連中)に対して、「炊き出し」をしてあげる・・・と、いうこと。
すると、そこに偶然居合わせた、鑑定士と女頭領の側近も、姫君に協力したいと言い出したのです。
そして、実のところ女頭領も、協力に参加したかった―――ようなのですが・・・
いかんせん、自分は組織の上に立ち、従う者達を須らく管理統治せねばならないので、さすがに断念せざるを得なかったようです。〕