≪五節;姫君、その静かなる怒り≫
〔それはさておき、一方で・・・婀陀那の意を汲んだ紫苑は・・・・〕
紫:フフッ―――
(公主様も、存外やんちゃなところが、おありだったようね、
それにしても、アヱカさん・・・婀陀那様の計画をお知りになられたら、どういった反応をなされるのか・・・な?)
少し・・・愉しみだわ。
〔ギルド・女頭領の婀陀那の、無謀とも遠大とも取れる計画を前に、少々浮かれ気味の紫苑だったようですが・・・
アヱカ姫と合流するために、この街にある憩いの場―――「公園」に、差し掛かった時、この街の子供数人が集まって、何かをしているのを目撃したのです。〕
紫:うん?何をしているのかしら・・・・あの子供達―――・・・
子:へっ―――! この化け物め!!
子:そんな形(なり)をして・・・オレ達を騙そうッたって、そうは行くか―――!!
子:これでも――――喰らいやがれ!!
少:・・・・・・。
紫:ぁ・・・あっ――!! あんな・・・小さな女の子を・・・数人がかりで??
で・・・でも、ナゼ―――・・・
〔そう・・・・その子供達は、手に持っていた棒切れや石、果てまたは足などで、倒れている小さな女の子に向かい、
罵倒を浴びせながら、暴力を振るっていたのです。
しかも、どうやらその女の子・・・・かなりの時間、暴行を受けていたらしく、ぐったりとして・・・ぴくりとも動けなくなっていたようなのです・・・。〕
紫:いや―――しかし、弱い者をああまで嬲る理由なんてないはず・・・助けなければ――――
ぇえっ―――??
〔そして紫苑も、この理不尽な暴力に対し直ちに止めさせようとしたところ―――・・・
子供等の間から垣間見えた、この小さな女の子の正体に・・・・その足と、思いはとどまってしまったのです。
なぜなら―――「人間の子にあるまじき、動物(それも狐)の耳と尻尾」・・・を、彼女の身体に確認してしまったから・・・。〕
紫:う―――・・・ウソ・・・に、人間じゃない??
じゃあ、なに―――? あんなに小さいとは云え・・・・人外の者がこの街に出回っているというの――???
〔「スピリッツ」―――とはいえども、それは“人外の者”。
それが、ここ―――「夜ノ街」に出てくるということなど、紫苑にしてみれば初耳だったのです。
そして、それであるが故に―――――立ち止まってしまった、足・・・・
しかし、こののち紫苑は、思いもかけない光景を目の当たりにすることとなるのです。
なぜならば、あの―――アヱカ姫が、息をせきりながらお目見えをしたから・・・〕
ア:あなた達・・・・今すぐ、その子からお離れなさい―――
子:ぁあ?! なんだ―――?あんた・・・
子:「この子から―――」って、こいつが何モンなのか、分かってて云ってんのか?
ア:「何者」―――ですって??
子:あぁ〜そうさ、こいつはなぁ、人の子じゃあないのさ・・・
子:見なよ、こいつの「頭」と「尻」にあるモノを。
ア:狐の―――耳・・・・に、尻尾・・・・
子:だっろぉ〜〜?
子:こいつはなぁ―――人の姿を装って、オレ達を化かそうとした、悪い奴なんだ―――!!
〔そしてアヱカ姫は、この小さな女の子の身に、降りかかっている災厄を払いのけるために、その周囲りに集(たか)っている者達に向かい、退くように促したのです。
けれども―――今まで暴行を働いていた者達は、こうも言ったのです。
「自分達を騙そうとした者を、罰してナニが悪いか」―――と・・・。
しかし、アヱカは―――・・・・〕
ア:だからといって・・・大勢でこんな小さな子を、いたぶるという道理がありますかッ―――!
お退きなさいっ―――!!
子:う゛ぐ―――・・・・
ア:さぁ―――退くのです!!
たとえ人外の者の子といえども、無害なこの子をこれ以上いたぶると言う事は、このわたくしが赦せませんっ―――!!
〔それは―――純粋な怒り・・・姫君が姫君であるが故の行動・・・・
たとえ、それが、「人外」なりとて、小さな子供を―――そんな・・・種族が違うから・・・と、
たったそれだけの理由で、痛めつけてはいいものではない―――と、アヱカはそう言い置いたのです。
その気迫は、少なからずも虐めていた子供達を気負わせたようですが―――・・・〕
子:へっ―――・・・よく云うぜ・・・・余所者のクセによう!!
ア:な―――なんですって??!
子:だって・・・・フン!そうだろう―――
オレ達は今までこの街に住んでいたけれども、あんたみたいな綺麗な顔立ちをした女なんて・・・・見たこともなかったぜ?!
ア:・・・・・。
子:それに・・・よく聞いてみりゃ、そのお上品そうな喋り方―――さぞや今までいいトコで、お暮らしになってきたんでしょうねぇ!
そんな人種に―――ハッ!オレ達が今まで、あんた方みたいな人間らに、どんなに虐げられてきたか・・・・
おそらくあんたも、自分の家が没落したもんだから、こんなトコに居ついちまってるんでしょうがよ―――!!
ア:そ―――・・・そんな・・・・言い方って・・・・
〔少し、この子供達の集団の中では、歳の大きなリーダー格の口から漏れた事・・・
それは、「余所者」という心無い言葉・・・さらには、身に抓(つ)まされる「家の没落」・・・・
少なからず当たっているその言葉に、アヱカは――――忘れよう・・・忘れよう・・・・と、していたある事、
自分の故国テラ滅亡の経緯を、克明に思い出さざるを得なかったのです。〕