≪三節;見知りし顔≫
〔伝えるべきことを伝え、その場から去ろうとしたとき、
タケルと婀陀那の両名は、やはり何かの違和を、即座に感じ取っていました。
見かけは、いつも通りの変わらぬ光景なのに・・・肌に感じるじっとりとした湿り気を帯びた、
どこか重たい空気―――・・・
そこへ―――彼の者達はいたのです・・・
見かけは、普通の人間とは変わらない男女一組の・・・剣士―――??
しかし、この二人を見るなりアヱカは―――〕
誰;――――・・・。
誰:――――・・・。
婀:(・・・何者じゃ、この者達は、ただならぬ雰囲気を出しおるとは―――)
タ:(・・・生気が感じられない―――
だが、この者達がここまで侵入をしているのに、外が騒がないというのは―――・・・)
ア:・・・ま、まさか―――あなたたちは・・・ガムラにマサラ??
婀:(なに―――?)
タ:(むん―――?)
〔アヱカは・・・その二人を見るなり、固有の人名を出しました。
しかし・・・
読者諸兄は覚えておいでであろうか―――この二人と同じ名を持つ、兄妹の“護衛将”のことを・・・
そう・・・このお話しの〔第一章〕にて、テ・ラ国の姫君であるアヱカを、
カ・ルマから守るべく、華々しく玉砕をした、あの忠義の士のことを―――
でも・・・そう、そこにいたのは生前通りの彼ら・・・
しかも、タケルの云い様にもあるように、『生気は帯びていない』―――・・・
だと、するならば・・・?
今―――この兄妹の忠義の護衛将は、何の目的でこの場に現れたのでしょうか。
それは、もはや説明するまでもなく―――・・・〕
ガ:・・・お久しぶりでございますな―――アヱカ姫様。
マ:・・・あたいたち、ずっと会いたかったんだよ―――
――あなた様の・・・心臓を抉り出してしまうほどにね・・・――
ア:―――!!
そんな・・・ガムラ、マサラ、どうしたというのです。
わたくしに・・・わたくしの命を狙いに来た―――なんて・・・
タ:やはり屍人<コープス>で、あったか!
だが・・・残念だか、そなたらの願いは聞き届けてやるわけには行かぬ!!
ガ:どけ―――邪魔立てをいたすと・・・
タ:―――するさ。
アヱカ様はワシの主君であるとともに、この世にはなくてはならぬ存在!
マ:ならば・・・障害は排除するまで―――!!
ア:あ・・・ああっ―――タケルさん!!
婀:姫君はこちらへ―――なに、あの人ならば大丈夫でございます。
ア:婀陀那さん・・・
(この方も、タケルさんを信頼しているのならば、わたくしも信頼をしなくては―――!
でも・・・けれども―――あの二人はわたくしの・・・!!)
〔彼らは――― 一様に、存在を弑するためだけの道具に成り果てていました・・・。
そのことは、そこに見られるように、以前では忠義一途の士であったのに対し、
まるで弑逆を愉しむかのような言葉の紡ぎ方にも現れていたことでしょう。
そして―――やおら女の屍のほうから、<双輪牙>と呼ばれる独特の武器で、
アヱカの命をとるのに、障害の一つとなりえているタケルに襲い掛かったのです。
それを・・・自分の想い人である存在を害される虞(おそれ)から、
悲鳴にも似たような声を上げるアヱカが・・・
けれども、すぐさま婀陀那が駆け寄り、アヱカの身の安全の確保に努めたあと、
自分の伴侶となるべき人物が、そう易々とやられはしないことを語ったのです。
その言葉を聞くと、アヱカもタケルのことを信じることにしました・・・
しかし―――今回自分の命を襲いに来たのは・・・
どうか・・・そのことは間違いであって欲しい―――と、願うのでありますが・・・〕