≪五節;棋譜の如く―――≫
〔するとリリアは、彼女の得意とする将棋<チェス>の棋譜を思わせるかのような、
そんな作戦案を披露したのです。〕
セ:―――なるほど・・・これならいけるかも。
カ:―――ですが・・・これでは、私を含めるもうお一方に・・・
リ:・・・それなら、私が―――
イ:リリア・・・そう、ではあなたにお願いするわ。
リ:うん―――・・・
私も、ウェオブリから離れたジン州の地で、あなたたちの祝福をしてあげるわ。
〔その見事な作戦に、仲間であるセシルやイセリアはもとより、
ジン州公であるハミルトンからは、絶賛をする声が上がりました。
では―――タケルや婀陀那は・・・?
かの二人は、その作戦の見事さはもとより、ハミルトンと再びここに現れたリリアの心意気も汲み取り、
また反対をする理由もないことから、敢えて口出しをしなかったのです。
それでは―――リリアが立てた作戦とは・・・
@近く、自分たちの婚約発表があることを、その当人たちである、
留守居役のミルディンやギルダスに知らせる。
A当然、二人にしてみれば初耳なので、このことを質しにウェオブリまで来る。
Bその際に、正規のルート<カルカラ街道>を通ってこさせるのではなく、
カ・ルマの要衝、“セイブル”に攻め入るかのような進路をとらせる。
Cすると、当然彼らが留守居役として預かっていたエルランドは、もぬけの殻―――となるが・・・
Dそれにつられて、出撃しようとするカ・ルマ軍を足止めにする象(かたち)で、
ハミルトン・リリア率いる軍が、ジン州城より出る―――
もし―――カ・ルマ側が、ミルディン・ギルダスたちの留守の間に出撃をしようとするのならば、
ジン州方面より出兵した軍に、自分たちが構築した砦を掠め取られてしまう結果となり、
損はしても得はしない・・・と、云う―――つまりは、ここまでがリリアの読みだったのです。
確かにリリアの読みには素晴らしいものがありました。
しかし―――タケルは、そこに一抹の不安を感じたからなのか、
リリアの作戦に補完する形で次のようなことを・・・
聡(さと)い者ならば、味方のカ・ルマ軍の危機には救援に来ようというもの―――
その救援も、クーナ方面に駐留するカ・ルマ軍のことを気にかけ、
そこでタケルは一計を案じ、予(あらかじ)めハイネスブルグ側にも、呼応して軍の出撃を請う、
“偽”の信書を携えた密使を、わざと彼らに拿捕されることで、
クーナからの救援を来にくくさせたのです。
そのことを、ハミルトンに同行して、ジン州へと赴く道中―――・・・〕
リ:なんというか・・・さすがよね。
私なんかじゃ、どうやったところで敵わなかったんだ・・・。
カ:どうしたのです、リリア殿。
リ:ああ―――いえ・・・このたび婀陀那様と結ばれるタケルという人のことです。
普段は・・・物静かな人なのに、一度怒りを露わにすると、誰よりも激しい一面を持ち合わせるんですもの。
それに・・・作戦の立て方も、私よりも巧妙で、たった一通の信書で相手を動かせないようにしてしまうなんて・・・
カ:そんなことはありませんよ―――・・・。
タケル殿も、あなたの作戦あっての策の補完をしたまで・・・素(もと)からではありません。
もっとご自分に自信を持ってはいかがです―――
〔かつて・・・自分の故国でも、ここまで優しい言葉を投げかけてくれたのを、リリアは知りませんでした。
それに、胸のときめきも―――・・・
私のことを認めてくれる人―――って、こんなにも近くにいるじゃない・・・
それに・・・なんだろう―――この淡い気持ち・・・
心の中が、どこか ほっ とするような気持ち・・・
見つけた―――これからの・・・私の、心の拠り所を・・・
私―――これから、あなたについて行っても構いませんか・・・〕