≪六節;愁王の臨終≫

 

 

〔ところ一方変わり―――アレから一向に、容態が快復に向かわなかったヒョウは・・・

新しく典医長となったヘライトスの、献身の治療も相成って、

なんとがギリギリのところで、生が紡がれていたのです。

 

しかし―――元々体力のなかったヒョウは、度重なる重篤に身体中が蝕まれており、

端から見ても、よくこんな状態で生きていられるものだとも思われていたのです。

 

 

そして―――・・・それはある日のこと・・・

王の看護ついでに、身の回りの世話をしている太后のいる時分に・・・〕

 

 

ヒ:―――先生・・・もう、私はそんなには長くないのだろう・・・

へ:・・・ええ―――長くは持ちません。

  むしろ、今ここでこうしていられるのが不思議なくらいだ・・・。

 

リ:せ・・・先生?! なんということを―――それでなくともヒョウ殿は・・・

 

へ:私は―――私自身が受け持っているクランケに、ウソを吐いてまで見せかけの安寧を保つということを、好しとはしていません。

  悪いときには、きっぱりと悪いと云う―――

 

  よろしいですか、お義母さん・・・もし、今の私の言葉で生を紡ぐるのを、諦めてしまうくらいならば、

  とうにこの方はこの世にはいないはずなのです。

 

  “病”を完治させるのは、その九分九厘までが医師の腕だと云われています・・・

  ですが―――残りの一分は本人の気力なのです。

 

  例え九割がた快方に向かっていても、生きる気力がなくなってしまえば、たちどころに暗転してしまうのです・・・

 

  私はね―――これまでに・・・そんな病人たちを、イヤというほど見てきたのですよ・・・。

 

 

〔その医師の言葉は、少し患者側からの視点で見れば、きついようなものに感じられました。

けれども、この医師は、今までにも様々な患者を診てきた経験があったのです。

 

その中には、もちろん今のヒョウ以上の、手のつけられなかった重症患者が、

自身の持つ強靭な気力だけで、病の峠というものを越した者もいたことを、そこで聞かせたのです。

 

その例を聞いて、リジュも心ばかりの安堵をしたようなのですが―――・・・

 

ヒョウは・・・自分自身のことは、よく知りえていたのでした・・・。〕

 

 

ヒ:先生―――に、義母上・・・これから、私の最期の願いを・・・

 

リ:―――!!

  ヒョウ殿・・・ナニを気弱なことを―――

 

 

〔愁王は、文字通り最期の力を振り絞り、これからの遺す辞(ことば)を―――・・・

 

まづ最初にアヱカを呼び、そのあと全官吏に申し渡すようにしたのです。

 

そして・・・そのあとで―――静かに息を引き取った王を囲み、

親族であるリジュと、ホウ―――昔より彼を知る婀陀那は、共に泣き濡れ・・・

また、ヒョウの遺言執行人であるアヱカも、天を仰いだまま―――立ち竦(すく)んでいたものでした・・・

 

享年31―――未だ、亡くなるには早すぎた王の末路は・・・

愁粛たるものだった・・・と、そう後世には伝えられたのでした。〕

 

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

 

 

あと