<第八十二章;時代(とき)の道標(みちしるべ)(陸)>
≪一節;法要の席にて≫
〔フ国の“愁王”没する―――前国王である“列王”ほどの、名声のある英雄ではなかったものの、
彼の治めた5年余りという短い期間は、民たちにしてみれば苛烈そのものでした。
そう・・・例え、そんなにも短い期間とは云え、彼は歴史に名を残すこととなってしまったのです。
紛れもなく、“暗君”の代表として―――
それであるがゆえに、民たちは、ヒョウが亡くなるのを知るのと同時に、
歓喜に沸いたものでした。
彼のなしたコトの真相―――それを知る者以外は・・・。
それは、フ国の官吏とて同様でした。
とはいえ、一国の主が亡くなったということで、一応は喪に服しているのですが・・・
その口許は、誰しもが緩んでいるようにも見えたのです。
そして―――故人最初の法要である 七日目 に、そのことは顕著になってきたのです。〕
官:いやはや―――しかし、思いもよらず期待外れでございましたな。
官:そうそう、お父上が名君だっただけに、その意志を受け継ぐものかと思えば・・・
官:まあ―――実際、国が傾かなかったのも、国政を掌(つかさど)る尚書令様と録尚書事様のおかげ・・・
官:ああ―――ほれ、噂をすれば・・・
官:これはイセリア様、この度はまこと惜しい方を―――・・・
イ:―――・・・。(ギロ)
官:おやおや―――返事をするどころか・・・
官:逆に睨まれてしまいましたな。
官:ふん―――余所者のクセに、いっぱしに譜代の者のような顔をするとは。
官:本当に・・・おや、あれに見えるのは―――
官:・・・これは婀陀那様、この度は―――・・・
婀:・・・・。(ぷいっ――)
官:あら・・・これから悔やみの一言でも述べようと思いましたのに・・・
官:さても―――難しいお方ですな。
官:そうそう、あたらわれらと同じでありましょうに。
〔敢えて、本人の前では口を吐きにくいことであったものが、
その本人が“故人”ともなると、いわゆる“死人は口莫し”状態となるために、
今までの憤懣は、堰を切ったように流れたものでした。
そのことを知っていたがために、イセリアや婀陀那は彼らを相手にしなかったのです。
二人とも・・・現時点で国政を動かしうる者であったがゆえに、
こんな者達の言葉に乗じては―――と、云うことも、少なからずあったのです。
しかし、この方は―――・・・〕
官;おお―――あちらにおられるのは諫議大夫様。
官:アヱカ様・・・此度の、国王様の崩御におかれましては、臣、心悼むばかりで・・・
ア:・・・それは―――あなた方の、本心からのお言葉でありますのか。
官:・・・はあ? これはまた異なコトを―――
国の官たる者が、その主を亡くしたことを嘆くのに、
今の発言は、いかなる理由があってのことなのでございましようや。
ア:ああ・・・いや、そうだったな―――不適切だった・・・
〔あたら策を弄する類(たぐい)の人間ではなかったため、
アヱカはついぞ、本音というものを彼らにぶち撒けてしまったのでした。
そのことを不適切である―――と、官から揶揄されるにいたり、
速やかに陳謝の意を表すアヱカなのですが・・・〕