≪二節;非客牌≫
〔それであるがゆえ―――朝議もまとまらないまま・・・問題を先送りするという形で、
一時休息を取り、国王としての自分の部屋に戻った継王は・・・〕
ホ:(はぁ〜・・・)―――あっ、母さま・・・
リ:ホウや―――つらいか・・・?
ホ:つらい・・・つらいです―――
大傅様の教えも、なんら役立てられないまま、まとまりのない官たちの弁に振り回されて・・・
今更ながらに思えば、父様の優れた手腕が疎ましいです・・・。
リ:ホウ―――・・・
ホ:ボクが・・・兄様の跡を継いで九ヶ月・・・
兄様の代には、イセリアさんや婀陀那様などの賢臣が、ヨロシク取り計らってくれていたこともあって、
政務がこれほどまでに大変なものだとは思いもよりませんでした・・・
リ:―――・・・。
〔『―――でも・・・』と、フ国の若き王は言葉を続け、傾きつつあった国政を、
持ち直してくれた、現在の官に感謝の念を贈るとともに、
自身でも、ある処に居住まう者に、ある頼み事をするために、あることを発動させようとしていたのでした。
それにしても―――この時期に至って、辞職の願いを申し出たイセリアと婀陀那の真意は、
どこにあったというのでしょうか・・・
実は―――彼女たちは、ホウの御前で、辞職の意を表せるとともに、
一時的に自分たちの故国に戻ることを宣言していたのです。
それはなにも、すでにフ国のことを見限った―――というものでもなく、
“時代の分岐点”に来ているとするこの時期に、身辺の整理を済ませておく必要性があったからなのです。
片や―――現・フ国の官吏の中でも、真に国を憂う者達は、
“落日”であるともされている国を見離すことなく、足繁くもある場所に通っていたのですが・・・〕
官:なんと・・・また―――
〔その官吏は、ある場所に通ずるという木立を抜け、
今では壮大な門構えを設(しつら)えている、シャクラディア正門前に来ていたのです。
しかし・・・そこで嘆息一つ―――
それも、この建物の門構えに見とれるという風でもなく、
正確には・・・その門に掲げられたあるモノ―――
“非客牌”
それが掲げられていたからなのです。
この『非客牌』という代物は、居住の主が、来客があったときでもそれを拒むときのために用いられたもので、
云うなれば“公然とした居留守”であり―――
この代物が掲げられていた場合は、どんな高貴な人物でも・・・どんなに急を要していても・・・
諦めて帰らなければいけない―――そんな仕来たりがあったのです。
それにしても・・・この官吏の落胆の色からも判るように、
この・・・シャクラディアの主―――アヱカが、非客牌を掲げて、少なくとも数ヶ月は経っていたようなのです。
折角、アヱカの意見を求めんがため、ウェオブリから足を通わせているというのに・・・
―――だとするならば、アヱカはこのとき何をしていたというのでしょうか・・・。〕