≪六節;女皇直属の親衛隊≫
〔しかし―――中には例外というのもあったようで・・・
その一つが、現在女皇の私室にて、接見を受けている二人の人物・・・と、その元主―――〕
婀:おお―――待ちかねたぞ・・・葵に茜。
葵:私たちは、公主様のご命令によりこちらに赴いたまで―――
茜:それを・・・例え命(めい)であっても、あの方の下を離れるというのは、私たちの本意では―――・・・
婀:フフ・・・いかがですかな、姫君。
この者達は、これまでヴェルノアの公主を護り通してきた、近衛の親衛隊でございまする。
かの<帝国の双璧>に肖(あやか)り、各二名―――公主である者の身辺警護を担ってきた者達なのでございます。
ア:大変―――感謝の念に堪(た)えないところです・・・。
それに、本当は君たちを、ここへ呼び寄せようとは思わなかったのだけれど・・・前例というものがあるからね―――
些(いささ)か、君たちの意志とは反してしまうことに、大変慙愧の念に耐えない。
葵:・・・・いえ、新皇国の当主からそのように云われては、もはや私たちには返す言葉すら見つかりません。
茜:これよりわれら二人、職務に全身全霊を傾ける所存にございます。
ア:ウフフ・・・それよりも―――ヴェルノアの公主様ご本人より推挙を受けただけのことはある。
実に気持ちのよい者達だ・・・。
某国には、忠臣である二人を奪ってしまったようで、甚(はなは)だ遺憾である―――と、そう述べ於かれたい。
〔謙遜のし過ぎ・・・と、云う風でもなければ、尊大に振舞うと云った風でもない・・・
ただ、簡素にして丁寧なる件(くだり)がその場にはあったのです。
一方では、本国の主から、急遽新皇国の皇都へ赴くよう促された、近衛の親衛隊の二人・・・
もう一方は、そんな主に酷似している、新皇国の将官とその当主・・・
けれども、この国の当主は、一国の官に過ぎない自分たちを、最敬礼で出迎えてくれた・・・
しかも―――“申し訳ない”とまで云ってくれた・・・
こんな―――こんな――― 一国の小官に過ぎない自分たちに、これほどまでの厚遇をしてくれるとは・・・
当初は、不遜に極まる行為―――だと、文句の一つや二つは云うつもりでいた二人でしたが、
女皇陛下の慎ましやかなる態度に、たちどころに萎(しお)れていったものだったのです。〕