<第八十五章;愛しき者達へ―――>
≪一節;女皇の施政の態度≫
〔この度、新皇国パラ・イソの国主である、女皇陛下の近辺警護を任された、
近衛の親衛隊に就任した葵と茜は、
就任した数日後には、女皇陛下から眼を離してしまうという、大失態を演じてしまうのですが、
彼女たち二人より、女皇・アヱカのことに詳しい=将作大匠=であるゼシカの助言により、
シャクラディア城の裏庭に設けられている、女皇の趣味である農耕作地に足を踏み入れたことで、
この国の女皇陛下が、国を治める立場の方にしては、あまりに似つかわしくない、
農耕作を趣味とされていることに驚きもしたのです。
それに、官吏の一人と話し込んでいるときも、どこか朗らかであり、友達泰然ともしていた・・・
根が明るく、こちらまでその明るさを分けてもらえるような・・・そんな雰囲気―――
そこで、葵と茜は、二つの約束をしたのです。
一つは―――次回もまた、自分たちがこんな心配をしないように、前もって行き先などを教えてくれること・・・
もう一つは―――今の自分たちのように、官・民問はず、誰しもがにこやかなる笑顔を絶やさない施政を・・・
すると、そのことを聞くと女皇は、それこそが当然であり、理想としていることだ―――と、述べたのです。
こうして、早朝の作業も終わり、これから定時の 朝議 に出席するために、
農作業の服から女皇の公務の服飾へ―――庶民の顔から、女皇の顔へ・・・と、
見る見るうちに変貌を遂げて行くアヱカを見て、思わずも眼を見張る葵と茜が・・・〕
ア:・・・うん? どうかしたのかな―――私のほうを見て・・・。
葵:いっ―――いえ・・・先ほどまでは、土と戯れていたあなた様が・・・
茜:とても・・・綺麗―――私たちの母国である、ヴェルノアの公主様である婀陀那様のように・・・
ア:ウフフ・・・あっはは―――それは、婀陀那さんに悪いよ。
だって、元々の素材というものが違うもの。
こんな私と比べられて・・・さぞや彼女も気を悪くすることだろう。
葵:いいえ―――! 決して、そのようなことは・・・
茜:そうですとも―――あの方にはあの方なりの美しさがあり、また良さもありますが・・・
決してアヱカ様は、婀陀那様にも見劣りしない美しさを持っておいでです!
ア:・・・その気持ちは、ありがたく受け取らせてもらうよ。
けれども、私が競うべきは、端に美麗容姿のそれではない―――
彼女が政(まつりごと)を行っている、かの国のあり方のように、
民たちの安んぜる国造りを目指すことのほうが、第一の目的でもあるんだよ・・・。
〔この・・・今の女皇陛下のお言葉を聞き、二人の親衛隊は宛(さなが)らに感じ入りました。
多分この方は、ご自分の容姿などは気になさらない・・・
ただ―――国の民たちの暮らしが安定することのみ、そのお心を砕き・・・
だからこそ、平気で土に塗(まみ)れることが出来るのだ―――と、そう理解したのです。〕