≪四節;伏した顔の向こうで・・・≫
〔するとジィルガは―――・・・まさにそうするように、
両膝を地に着き、額と両手までを地に着けて平服の礼に倣ったのです。
しかし、ジィルガがそうしたのを見るや、彼らは―――〕
べ:フフン・・・フフフ―――いいザマじゃねぇか・・・マエストロデルフィーネ。
キ:ああ~そうだな・・・過去には、オレ達に幾度となく煮え湯を呑ませてくれたものなぁ。
べ:それがどうしたコトだぁ~~?
まるで平蜘蛛のように這い蹲(つくば)りやがって―――
キ:どうしたぁ~ぁあ~? まだ忠誠の言葉を聞いておらんぞ―――!
ジ:・・・・ははっ―――不祥私、ジィルガ=エスペラント=デルフィーネは・・・
キ:ああ~? 聞こえんなぁ―――! もうちっと声を張り上げんか!!(ガシッ――☆)
ジ:・・・・・ははっ―――私は・・・
シ:(まづぅ・・・)・・・あの―――今、忠誠を誓っているところなんですから・・・
キ:るせぇ―――!
オレ達はなぁ、今非常に頭にキてんだ!!
随分と昔に、こいつから被った害がいかほどのものか・・・お前如き出は計り知れまい!
頭の一つや二つ、踏みつけたところで拭いきれんわ!
シ:(あ~そうかい・・・んじゃ勝手にしな、私ゃ知らないよ―――)
・・・あっ、ビューネイ―――様・・・
ビ:(ふぅ・・・)卿らも、そのくらいにしてはいかが―――かな。
確かに、この者による被害は甚大ではあったが、そこは卿ら以外でも私のほうでも同じことだ。
いや・・・私達だけではない、アナウスやフォルネウス、果ては大王閣下までも害を被られているというのに・・・
今ここで、卿らが自分の恨みを晴らせたところでなんになる―――
折角、遥かな過去には私達を苦しませた相手が、
そっくりそのまま・・・今度は私達の戦力になるというのに―――
これは、手放しで喜ぶべきことではないのかな。
〔マエストロ・デルフィーネと畏れられた存在は、さもそうであるかの如くに、
平身低頭にて彼らに許しを乞い、永久(とこしえ)の忠誠をそこで誓っていたのです。
けれども、遥かな昔―――彼女から多大な損害を被ってきた魔将たちは、
ジィルガがそうしたところで、溜飲を下げるようなことをせず、
なんと、額(ぬか)づいていたジィルガの頭を、その上から足蹴にしてしまったのです。
――平身低頭――
――額づく――
――伏礼――
これらの形態が、共通としている事実―――
それこそは、“顔を伏している”ということ。
傲岸不遜な輩の見地からなれば、それは自分たちを敬っている姿勢でもあり、
とても心地の良いもの。
―――されど・・・
それが、そうだとは思っていない者からの見地だったらば・・・?
つまり、敬いの象(かたち)などではなく、怨みのこもった象(かたち)であることは、容易に知れたことでしょう。
そして・・・現在のマエストロがそうだったのです。
憎憎しい相手に、芝居であることがバレないようにするため、
そいつらの前で、敢えて額(ぬか)づいて見せた・・・
それだけでも我慢の限界だったのに、魔将のうちの二人は、
ジィルガを詰(なじ)り、その上頭を足蹴にしたのです。
顔を“伏せ”ていた―――・・・
それは、彼らはもちろんのこと、ジィルガのほうでも幸いだったのです。
もし・・・ジィルガがその時、顔を上げたらば―――
おそらく―――いや、確実にその場は流血の大惨事になっていたに違いはない・・・
魔将のうちの一人が、妹の頭を足蹴にしたのを見て、
姉は、今まで積み上げてきた計画の破綻と、計画の大幅な軌道修正を迫られたのです。〕