<第八十七章;国が失われるという理念>

 

≪一節;抗・カルマ策≫

 

 

〔現段階においては、未だ“仮想敵国”であったカ・ルマが、

その野望の下に、軍備の強化を図っていることを知るに至り、

“仮想”から、“本格的”な敵国としての考慮をしなければならないことに、

女皇はその胸を痛めていました。

 

これから訪れるであろう・・・戦乱の世―――

 

“争い”というものは、結局なにも産みはしないことを、その方は知り得ており―――・・・

 

けれど―――・・・

 

そのことが遺伝的に組み込まれ、“破壊”の後に何か新しいものを“産み出す力”があることを、

同時に知り得てもいた女皇は、

人間の、この深い“業”に、苦慮していたのです。

 

―――とは云え、何も無抵抗のうちに、蹂躙を受ける謂(いわ)れなどないことから、

これから各地で起ころうとする、小規模な紛争に対処することを、

軍部に認めさせたのです。

 

 

そして―――どのようにしてカ・ルマに抗っていくか・・・という計画を練るべく、

諸将が集結した部屋では―――・・・〕

 

 

婀:(婀陀那;現在のパライソの将軍位トップは、“大都督”を拝命している彼女。)

  ―――さて・・・これより、最初の対カ・ルマ戦を視野に入れた軍儀を執り行うものであるが・・・

  何か意見のおありの方は、ございませぬかな。

 

イ:(イセリア;現在パライソの将軍位ナンバー・ツーは“衛将軍”を拝命している彼女。

  事実上、彼女達二人でパライソ軍を動かしていると云っても、過言ではない。)

  ・・・やはり――ここは、かの国と一番良く当たっている方に、意見を伺うのが上策か・・・と。

 

婀:ふむ―――・・・それは一理ありますな。

  ではキリエ殿、そなたは以前ガク州の司馬を務めていた頃、かの国と対峙た回数が多いことから、

  なにか対応策といえるものはないですかな。

 

キ:(キリエ;実は、彼女の将軍位は以前と変わらず“左将軍”ではあるが・・・

  ある事情により、周囲には知らせていない様子―――

  いわゆる・・・この時も、 “元”フ国・ガク州司馬 という立場に甘んじている。)

  はい―――・・・正直なところ、今までは人間の兵士を相手としていましたが。

  前線からの報告では、このたびより魔物を主流とする編成―――と、聞いております。

 

  それゆえ・・・コレまでどおり―――とは、いかないものと・・・

 

カ:(カ=ハミルトン;元フ国・ジン州公であるこの人物も、今ではパライソ国尚書僕射・安北将軍)

  ―――確かに・・・私とコウ殿と紫苑殿は、さある時期にカ・ルマの魔将と対峙したことがありましたが・・・

  大変に手を焼かされたことを記憶しております。

 

コ:(コウ=タルタロス;元フ国・ギ州公であるこの人物も、今ではパライソ国・安西将軍)

  左様―――そのときは一人だったから良かろうものを、

  此度からは、兵卒の者から能力の底上げ化を図ったとなると・・・

  こちら側の被害も、甚大化するものと思われるでござる。

 

紫:(紫苑;四方将軍の一つ、“前将軍”に任じられる。

  婀陀那の懐刀)

  しかし―――・・・我らのほうも、ある者を味方につければ、或いは・・・

 

婀:―――紫苑、前将軍。

  そなたは何が云いたいのじゃ。

 

紫:はっ―――お畏れながら・・・

  しかし、このことは―――同じ戦場を共にした、お二方もご存知のはず・・・

 

カ:・・・まさか―――

コ:あの時の―――?

 

婀:いかがしたのか―――お三方だけが知った被りをしておるのは、

  この場において平等とは申せませぬぞ。

 

カ:・・・そうは云いますが―――

コ:強(あなが)ち・・・こちらについてもらえるとは―――・・・

 

 

〔この頃には―――軍務関係の職である“将軍位”が制定され、各々が適切な役職に就きました。

 

『衛』『四征』『四方』・・・と、その顔ぶれは、名だたる将の宝庫でしたが―――

それすらも掻き消えてしまうような、カルマの軍備再編成・・・

軍部の底辺の力ともいえる、兵卒の能力の底上げを図ったということに、

皆一様にして、頭を抱えていたものだったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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