≪三節;弁舌巧みに・・・≫
〔当時―――私は、ラージャ近辺の元フ国はガク州の砦へ駐屯していて、
ある物見からの報告で、ラージャとの国境付近で、カルマの兵士の一人を咥(くわ)えている、
“蒼龍”と遭遇してしまったのです。
そのときには、まだカルマの兵士は生きていたようでしたが・・・
“蒼龍”がこちらを睨んで申すのに―――
――コンナ 臭イ肉ノ味ガスルトコロノハ モウ飽キタ・・・――
――ソロソロ・・・ ソチラノ肉デモ 啖ラオウカ――
―――と・・・
私は―――・・・考えたくもありませんでした・・・
あの存在は、本当に気まぐれでカルマの兵士を襲い、その血肉を貪っていたに過ぎなかったのです!
ですから・・・そのような―――“蒼龍”を味方につけようなどという、恐ろしげなる行為は慎んでください!
この度なされた、元フ国・ガク州司馬キリエの弁舌は、信憑性こそ乏しかったものの、
蒼龍の騎士なる存在と、カルマ兵との衝突を幾度も見かけていたことから、
皆一様にして信じずにはいられなかったようです。
それゆえ・・・だからこそ、彼女が 当事者本人 であろうということなど、
気付く由もなかったのです。
ですが―――こうして、最初のカルマに対抗するための作戦会議は、
カルマ軍を警戒しつつ、蒼龍の騎士にも配慮をする―――という、異例の事態に落ち着いたのです。
そのあと―――軍儀においても、中心的な役割を果たす有志の者が集い・・・〕
婀:・・・キリエ殿のあの弁―――どのように捉えますかな、イセリア殿・・・。
イ:俄かには信じ難い―――と、申しましょうか・・・。
されど、かの存在に直接会っているのが彼らしかいないとあっては、
信じないわけには参らないでしょう・・・。
紫:・・・婀陀那様―――
婀:・・・紫苑か―――
中々好い提案ではあったように思えたが―――今少し軽率に過ぎたようじゃな。
他の力を頼みにしようということは、自他共にパライソの軍が弱いということを認めておるとはいえぬかな。
紫:はい―――・・・
私のほうも、決してそのようなつもりなどなかったのではございますが・・・
以後、発言のほうは留意しておきたいものと存じます。
誰:衛将軍様―――・・・
婀:タケル殿か―――・・・何か気付きおく点は、ございませなんだかな。
タ:(タケル;“政”“軍”ともに精通していると思われるこの男は、
意外にも尚書・中軍師という官職に甘んじている。)
いえ、今回は特には―――・・・
しかし、各列強への支援だけは怠ってはならぬ・・・と、思いまして。
婀:各列強の―――・・・と、いうことは、パライソのみに留まらず・・・と、いうことじゃな。
タ:はい―――。
此度の軍部の編成により、軍事国家であるヴェルノアからの文武官の流出は、
むしろ喜ぶべきものなのでございましょうが・・・
依然―――“柱”となりうるべき人材はそのまま・・・
まあ、コレはただ単に、こちらの欲を申しているだけなのではございますが・・・
婀:フフ・・・まあそこは確かに、贅沢と申すべきよ―――な。
・・・して、そなたは何か、打開策を持ち合わせておる―――とでも。
タ:・・・ない―――ワケではございません。
・・・が―――これからワシが提案いたしますことは、見方を変えますと“政策”のほうにも捉えられますので・・・
婀:ほう―――・・・して、その策とはどのようなものでありますか。
〔依然、信憑性としては足るものではなかったにしろ、
ああまで畏ろしげに語られれば少しは怯むだろう―――・・・
実際、キリエが意図していたものは、図にはまりました。
けれども、軍部首脳も、最初からそんな存在に頼りきろうという姿勢をよしとはせず、
軍部の沽券にもかかわるものとして、その案は今回は見送られたのです。
そのあとで―――優れた能力を持ち合わせていながら、尚書・中軍師程度に納まっているタケルからは、
会議中の提案には出さなかったものの、胸には含んでいたことをその場にて話してみると・・・
録尚書事・衛将軍である婀陀那と、尚書令・征東将軍であるイセリアは、
自分達の念頭にはなかったけれども、存外に良計であると思ったため、
次回の朝議で取り上げることとしたのです。〕