<第八十八章;初勅>

 

≪一節;国民食堂にて・・・≫

 

 

〔『ラージャとヴェルノアの併合』は、奇しくも女皇陛下の判断により却下され、

半永久的に日の目を見ることはありませんでした。

 

それは、女皇自身が、自分の故国を失ったときの苦しさや哀しさを知っていたからであり、

国の一部の人間が享受できたところで、その大半を占める民たちが真に納得しないだろう・・・

―――との、見解によるところのものだろうと思われていたのです。

 

代わりといって取り沙汰されたのは、周辺の隣国と“流通”の面で綿密にする・・・

―――ということで、落ち着きを見せたのです。

 

 

それからの―――ある日の一コマ・・・

アヱカが日頃、シャクラディアの裏庭で土と戯れているときの野良着に身を包み、

市井のほうに赴いたときのこと―――・・・

 

それは・・・ある昼下がりの―――麗(うら)らかな一時(ひととき)でした・・・

 

目下(もっか)、女皇が気になるところと云えば、自国の国民の暮らしがどうあるか・・・であって、

国の一部の人間―――これは主に富豪だとか、官僚たちの暮らしが豊かである・・・と、云うことではなかったのです。

 

(もっと)も―――女皇が、“古(いにし)えの皇”に似たるところと云えば、

国家の源となる国民たちの暮らしに細心を砕き、国政を与(あずか)る自分たちは二の次―――

(無論、この憤懣は一部の官僚たちの間で取り沙汰されていたことではあったようですが・・・)

しかしそのおかげで、シャクラディアの城下町は、往時を偲(しの)ばせるかのような、

平和を謳歌している民たちであふれていたのです。

 

そして今―――国民となんら変わらない格好をしたアヱカが・・・

国営の“国民食堂”に入っていったようです。〕

 

――〜カラン・・〜――

 

料:(料理人;この食堂のコックではあるようだが、煩雑するときには彼でさえも客からのオーダーを取っている)

  ―――はい、いらっしゃいませ、何名様でございましょうか・・・。

 

ア:うわっ――― 一杯だなぁ・・・、ちょっと時間帯が煩雑しているときと、かち合っちゃったみたいだね。

 

料:はは―――どうもありがとうございます・・・(はて?)

 

ア:それより―――ここは君一人で切り盛りしているのかい、マダラ・・・

 

マ:(マダラ;実は、あのコックはマダラでした。)

  ―――はい? なぜ・・・私の名前を・・・

ア:―――ん?だって・・・胸のプレートにそう書いているじゃないか。

 

マ:・・・ああ―――そう、でしたね・・・。

  (不思議な・・・普段ならば誰もが見ないようなものを・・・)

 

ア:ところで・・・注文をしたいんだけど―――

マ:あっ・・・これは失礼をいたしました―――

  それでは至急、担当の者と替わりますので・・・

  すみませ〜ん! 11番テーブルにオーダー入ります―――

 

 

〔この食堂は、女皇陛下が国民のことを思い、安価でなおかつ滋養満点の料理を食べさせるために、

国の予算を使い、建てられた処だったのです。

 

ところが・・・?

 

今、庶民の姿をしたアヱカの相手をしたのは、どうやらこの食堂の料理人らしき人物だったようですが・・・

 

それが マダラ とは―――??

 

それよりも、料理人である彼でさえも注文取りに回らねばならないほど、この食堂は繁盛し、

(さなが)らにして人手不足を物語っていたようです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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