≪六節;初勅≫
〔翌早朝―――その日の朝議は、動揺とともに衝撃が奔りました・・・〕
イ:・・・今、なんと―――??
ア:何もそう・・・驚くべきことではない、お鎮まりを・・・尚書令。
〔定例時刻に、今朝(こんちょう)の行く末を決定する 朝議 ―――
その場で、女皇ご自身が女皇自らのお言葉で、ある驚くべきことを述べられました。
それは、女皇の近くの席に座り、議事の進行役を勤めていた尚書令であるイセリアの態度にも、
明確に現れていたのです。
―――とはいえ・・・普段は、滅多なことではそんなに驚きもしないイセリア・・・
その彼女が、驚いてしまった事実―――・・・〕
ア:―――確かに・・・緒官たちには奇抜に思えたことだろう・・・
けれども、この事実には決して目を背けてもらわないでほしいんだ。
―――この大陸には、現在私たち“人間”と言う種族のほかに、
実に種々様々な種族が暮らしている・・・
有翼人種や、有鱗人種―――精霊種や、獣人種だっている・・・
ただ―――緒官たちの中には、彼ら・・・人間ではない種族は、排斥すべきだ―――
・・・と、云う考え方が、多々にしてあると思う。
それは・・・私にしてみれば、非常に残念であることのように思える・・・。
そう私が述べると、緒官たちの中には、ではあのカ・ルマは―――と、云うことになってくるだろう。
確かに、かの国には、人間の住民が少なく、そうではない種族の割合が多い、
けれど、人間ではない種族・・・その総てが、敵対をしているカ・ルマのようだと云い切れるだろうか?
では逆に―――人間が、カ・ルマの国にいるというのはどういうことなのだろう?
どうして・・・こうも同じ種族同士が、血で血を洗う抗争をしなければならない??
それに―――・・・私は過去に、ある町で、無害の人間ではない種族が、
人間の子供たちに虐げられているのを見たことがある・・・
それでも果たして、人間ばかりが害を被っている―――そう云えるだろうか。
〔殊の外―――女皇のお言葉は、人間ではない種族を庇護しているかのように聞こえました。
でも確かに、よく考えてみれば、判り切っていたことだったのです。
人間ではない種族―――“亜人種”<デミ・ヒューマン>その総てが・・・
人間に実害をもたらす存在ではないことを・・・。
それに、デミヒューマンには、人間にはない特徴・・・
牙がある―――だとか、獣のような耳や尻尾を持っている・・・だとか、翼が生えている―――だとか・・・
では、人間がそんな彼らを糾弾できるほど、清廉潔白なのか―――と、云うと、
果たしてそうではない・・・
自分たちの身体にはない特徴を持つから、排斥してしまえ―――と、云うのは、
まさしく差別であり、それは存在そのものが劣悪になるばかりだ―――と、女皇は皆に説いたのです。
そして―――次には、最も重々しい口調にて述べられるには・・・〕
ア:けれども―――この大陸に住む、それらの者達総てを哀れもうというのではない。
但し―――パライソに居住する者達に限っては、これ以後危害を加えることも、排斥することもしてはならない。
なぜならば、この世に等しく生を受けた生命(いのち)を、
もうひとつの生命(いのち)である私たちが奪ってはならないのは、至極当然だと思うからだ。
それでもなお、一つの種族が、もう一つの種族を虐げるというのならば、
その者には必ずや厳罰をもって対処するであろう―――
=この世に生を受けた者は、その総てが平等である=
以上―――これをもって初勅とする!!
〔一つの生命体が、その枠とは別の生命体を非難糾合する―――
しかも、その一つの生命体の中でも、個々のイデオロギーの違いや人間性の違いによって、
すぐに諍(いさか)いを起こすというのに―――・・・
それが、何の優位性を持って、別の個性を非難できるのか―――
その者には、そこが判りだにしえませんでした・・・。
そういえば―――人間たちは、遠い過去にも肌の色や髪の色・・・眸の色や言語の違いなどで、
いつもいがみ合っていた―――・・・
現在ではそういうことは少なくなってはきているけれど、
やはり西の地域に住んでいるだとか、東の地域に住んでいる―――だとか・・・
そんな些細なことで口論になっていたりすることは、ときたまに見かけたりする・・・
皆―――産まれたての頃は、等しく同じ生命なのに・・・
いつから、こういった悪循環が芽生えたり、植えついてしまうのだろう―――・・・
とどのつまり―――その方の悩みとは、“種族毎”にではなく、もっと大きな枠組み・・・
=一箇の生命=
―――と、して、人間とデミヒューマンを位置づけ、
パライソに息づく、実害を持たない者達を庇護するために、
“初めての勅令”―――『初勅』に、そのことを盛り込んだのです。〕