≪五節;死に急ぐ者≫
〔一方そのころ―――炎上する西の丸・二の丸を見据えながら、
ノブシゲとチカラは、互いの健闘を讃えあっていました。〕
ノ:・・・二の丸まで陥ちたか―――
チ:―――されど、人心まで陥とされておりませぬ。
最後に一矢でも報いてくれましょう―――!
ノ:・・・すまんな―――左近・・・
チ:・・・いえ、こちらこそ―――上役である方に暴を振舞いまして・・・
ノ:いや―――逆にお礼を述べたいくらいだ。
あのときの、お主からの一発がなければ、それがしも地に斃れたる屍の一つとなっていたことだろう・・・
おかげで目が覚めた―――
それにしてもお主、随分と兄に似てきたものだな・・・。
チ:・・・いえ―――
〔そこには、感謝を述べる者と、陳謝を述べる者の二人がありました。
けれども、これにはそれなりの理由があったのです。
それというのも―――これより少し前、ワコウ城・大手門の攻防で、
ここを破られれば、例え都城といえどもひとたまりもないと判断したノブシゲとチカラは、
決死の抵抗を試みては見たのですが・・・
やはり、人間の兵と魔物の兵とでは、基礎的なものが違うらしく、次々と討たれていくラージャの兵士が・・・
すると―――自分の家臣たちが斃れ逝くのを見て、一層に奮起したノブシゲが、
単身にて敵中突破を果たさんとしたところ―――・・・〕
チ:弾正殿ぉ―――! お一人でどこへ行きなさる!!
ノ:左近か―――それがしは、単身にて敵の懐深く潜り込み、この手で魔将の馘を挙げてみせる!
チ:ナニを馬鹿な―――?!
血迷われましたか! あなた様とて、そのことが無駄であることは、もとよりご承知のはずでしょう!
それとも・・・まさか―――?!!
ノ:フフ・・・ナニ、心配はいらん―――それがしには勝利の女神がついておる・・・
ジィルガ=式部=シノーラ様が・・・な。
チ:義姉上(あねうえ)―――
ノ:・・・思えば、それがしはあの方の死より、だいぶ遅れをとってしまった―――
あの方一人では、淋しかろうと思ってな・・・
〔ノブシゲの陣幕を上げて入ってきたのは、これからの戦略の立て直しを図るため、
直談判をしにきたチカラなのでした。
するとチカラがそこで見たのは、ノブシゲが自身の具足を身に纏い、
しかも騎乗までして、まるでこれから出撃するかのような出で立ちだったのです。
しかも・・・そうしている理由を聞くうちに、それは“出撃の身支度”などではなく、
“死出の旅への身支度”であることが判り、
ノブシゲが慕っていた、チカラの義姉でもあるジィルガ式部の死より、年を経てしまっていたことを悔い、
この城を“死地”と見定めた上での出撃―――・・・
そのことは、美しくも儚い美談で飾られるはずだったのです。
―――が・・・
ノブシゲが、その戦で最初に浴びた一撃は、意外にも・・・〕
ノ:ぐぅおっ―――! さ・・・左近―――
チ:ナニを判らぬことを申しているのです!
手前の義姉(あね)はすでに過人―――それを思い慕うだけならばまだしも、
一番大変なこの時期に殉じようとは、いかなるご所存からですか!!
今、あなた様が義姉(あね)の死に殉じたからとて、義姉は喜んだりはいたしません。
むしろ逆に、ナゼに自らの命を粗末に扱ったかに、激しく憤ることでしょう!
そして、こうも仰る筈です・・・“生きよ”―――と!
〔すでに死の覚悟をし、それを望んでいる者を思い留めらせるために、
チカラは自分の上役であるノブシゲの身を打ち据えました。
しかし、それは本来ならば、不届き千万に値するものとして、須らく罰則の対象ともなるわけなのですが・・・
現在のチカラは、ラージャの重要な家臣の一人・・・
このような些事で処罰の対象にするのは、まさに愚であるとし、
それでなくとも、彼がそうしたことで、結果として大事な将の一人の命を永らえさせることができたことの方が、功が大きかったのです。〕