≪第二節;折衝≫

 

 

〔それはご多分にはもれず・・・この家の主を引き抜こう――― と、しているようですが・・・

果たして、どうなのでしょうか。〕

 

 

ス:私は――― 主の命を帯びたる者で、名をスミルノフ・・・と、申します。

  真に、貴殿に置かれましては、ご機嫌のよろしい時に訪れた模様で―――・・・

 

主:そのような、社交的なことは――― もう、よい。

  ところで、このようなアバラ家に、あなたは一体何用で訪れなさった―――

 

ス:ふふふ・・・いや、さすがは――― 私が、何の目的もナシに、訪れたのではないのを、既にお察しでいらっしゃる・・・・。

主:・・・・・。

 

ス:(ニャ)貴殿もご存知の通り、今は乱世のご時世、群雄も割拠しておる次第にございます。

主:・・・・・続けろ。

 

ス:人心は、既に麻の如く乱れており、わが国の主上は、そのことを第一にお嘆きにあらされまする。

そこで・・・近隣の各国に、私のような者を遣わし、能吏(のうり)を募っている・・・と、言うわけです。

 

主:それで―――・・・このワシも、その目に留まった・・・と?

ス:はい、然様で・・・・。

  (ガサ)これは、わが主の書状にございます、一度お目通しのほどを・・・・。

 

主:ふむぅ・・・・。

 

ス:聞けば―――・・・あなた様の家系は、代々この国の軍師をなされておられる・・・とか?

主:(ピク・・・)その噂・・・・どこで?

 

ス:いえいえ、“噂”などと・・・・滅相もない、事実―――で、ございますよ。

主:フフっ―――・・・噂・・・などではない・・・か。

 

ス:はい―――・・・。(ニィ)

 

主:――――・・・・皮肉、な、ものだな。

ス:(ぅん?)

 

主:確かに、ワシが元いた家は、軍師を幾人も輩出してきた・・・だが―――

ス:だが・・・?

 

主:(フッ)余りに凡愚だったものでな、勘当された始末でなぁ――――・・・・

  と、こういうことまでは、ご存知なかったようですな。

 

ス:(な、なんと―――・・・)い、いや・・・しかし、貴殿の部屋に積んであるこの蔵書の数々は―――・・・

 

主:はははは―――! ああ、いや、これか・・・

  実は、今更ながらに焦りを覚えてしまってな、必死になって読もうとしてはいるのだが・・・

  困った事には、その内容が、全く頭の中に入ってこないのだ・・・

 

それで、今では専ら、肘掛や枕にするのに、丁度よい高さと硬さなのでな、そちらのほうに重宝している始末よ。

 

ス:(な―――・・・・なんと・・・・)

 

主:・・・・と、こう言ってしまえば、少しはがっかりされたかな―――?

ス:――――!!

 

主:(フ―――・・・)まぁ・・・この書状は開かず、このままにしてお返しいたそう。

ス:し―――しかし?!

 

主:この―――凡愚なる者に対し、其許(そこもと)のような高官を、この庵に迎え入れた事は、身に余る光栄と存ずる。

  ―――・・・が、しかし、ワシは、今はどこにも、仕官するつもりは毛頭・・・・ない。

 

ス:し、しかし――― それでは、その稀代の才能を、このようなところで、喰い潰してしまわれるおつもりか―――

タケル=典厩(てんきゅう)=シノーラ殿!!

 

 

〔その時、客人は・・・スミルノフは、確かに言ったのです。

今、自分の前に坐する、棗色の肌をした偉丈夫に、その者の本名である、タケル―――― と・・・。

 

そう・・・この庵の主こそ、ラー・ジャ国随一の名門、シノーラ家の嫡流だったのです。

でも、彼自身が言うのには、『名家には不相応な者故に、勘当された身』であるとし、

しかも、どこの国へも仕官をするつもりもない・・・だとか。〕

 

 

タ:(タケル=典厩=シノーラ;24歳;男性;以前に使っていた“ステラバスター”は、世を忍ぶ借りの姿)

  稀代の才能・・・・(フフフ・・・) モノは言いようですな。

  まあ、そなたの主上には、いいように言い捨てておいて下され・・・

カ・ルマ国、大鴻臚・スミルノフ=ラッド=ヴィザール殿。

 

ス:(う〜〜・・・)むむぅ・・・勿体のないことを・・・大王は、そなたを大司馬にまで、考えておいでなのに・・・・

  それでは、失礼いたす―――。

 

タ:ご期待に応えられず・・・申し訳ない。

 

 

〔しかし、今度はタケルが、この草庵を訪ねてきた者の官職を言い当て、グゥの音も出されぬようにした挙句、

体のよい形で、このときの要求を突っぱねたのです。

 

そして・・・このスミルノフ某を、返したあとで――――〕

 

 

タ:・・・・・すまないが、入り口に塩を播いといてくれ。

ユ:え? は――・・・はい。

 

 

〔―――塩を播く―――とは、“場を清める”ことであり、やはり・・・と、いうか、

今の乱世の、元凶ともなっている処の者を、招き入れてしまった事には、苦々しいものがあったのには、相違なかったようです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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