≪三節;もう一人の来訪者≫
〔しかし――― 今回は、このままでは終わらなかったのです。
それというのも、その日から二・三日後、今度はこの国の若者が・・・この庵を訪れたからなのです。〕
若:ご免―――・・・
ユ:あ、はい・・・・(って) あっ、こ・・・これは。(ペコ)
若:今、典厩(てんきゅう)のヤツは在宅か?
ユ:はい、少々のお待ちを―――・・・
〔この若者、何者なのでしょうか、タケルの事を、ミドルネーム代わりの字(あざな)、『典厩』で呼ぶあたりを見ると、
よほどに親密な間柄、のようではあるのですが―――・・・
すると、ユミエに呼ばれ、奥のほうからタケルが、そしてこの若者を見た彼の第一声は。〕
タ:なんだ・・・誰かと思えば、弾正(だんじょう)じゃあないか。
ノ:(ノブシゲ=弾正=タイラー;24歳;男性;タケルとは旧知の仲の、この国の若武者)
ふ・・・久しぶりだな。
タ:どうしたんだ、お主程の重臣が、このようなところに・・・。
ノ:そいつは、お前自身が心得ている事なんじゃあないのか。
タ:・・・・・。
ノ:カ・ルマのやつらが、隣接しておる小国を、その版図に加え、
しかも我等の国、ラー・ジャをも蚕食(さんしょく)しようとしているというのに・・・・
それをこともあろうに、その家臣の一人と会っていたそうじゃあないか。
タ:あぁ・・・・そのことか。
ノ:お、おい! 『そのことか・・・』じゃあないだろう??
全く・・・お前というヤツは、時機が時機だけに、それはまづいと思わなかったのか?!
タ:そんな・・・そちらの事情も知らんし、そんなことは思ったことも・・・・ない。
ノ:お―――・・・おい。
タ:ただ、ワシが会ってみたかったのは、かの国が、どんな矜持を持って、世を騒がせているのか・・・知っておきたかったまでの事だ。
ノ:それでは―――・・・
タ:無論・・・カ・ルマに赴く気など毛頭もない――――・・・・し、
ノ:(ほっ・・・)ん―――?
タ:かといって、元の鞘に納まるつもりも・・・・ない。
ノ:んな――――・・・。
タ:ワシの役目は・・・・あのお方を死なせてしまった、あの時で既に終わっている・・・・。
ノ:ジィルガ・・・・様。
〔その若武者の名は、ノブシゲ・・・そう、この者こそ、タケルという漢(おとこ)を知る、唯一無二の親友だったのです。
そのノブシゲが、彼に会うなり切り出したこと・・・それは、二・三日前にカ・ルマの高官と会っていた事を知ったがゆえに、
彼を諌めに来た・・・の、ですが、実はそれはタケル自身、考えがあっての行動―――だということを、彼の口から聞くに及び、
ほっと胸をなでおろしたのです。
でも・・・? タケルはこうもいいおいたのです。
『今更に、元の鞘に納まるつもりはない』と・・・
それに、どうやらタケルが、自国の都より離れた処に居を構えているのも、過去のいきさつに問題があったようです。
そして――――〕
ノ:・・・・そうか、戻る気はないのか・・・。
タ:残念ながら―――・・・
ノ:そうか―――・・・(フゥ)なら、仕方がないな。
実は、一縷の望みを賭けてはいたんだが、お前のその頑固なところは、昔と変わらんからな。
タ:すまんな。
ノ:まぁ――― そういうな、実をいうとな、少し安心をしている。
タ:ほぅ―――・・・。
ノ:お前みたいな切れるヤツを、国外に流出させてしまうことにな。
2年前にいきなりここから姿を消したときには、肝を潰したものだ・・・。
だか、まぁ・・・すぐそのあとに、お前の後を追った 梟(きょう) から文が認(したた)められてきたから、胸をなでおろしたんだがな。
タ:ふ―――・・・そうか、分かった、それじゃあ次に、ここを空ける時には、一言知らせておく事にしよう。
ノ:ああ、是非とも、そうしてもらいたいもんだ―――
―――あっはっは―――
ノ:それじゃあ・・・それがしもお暇(いとま)することとしよう。
ナニ、心配するな、他のやつらには、それがしがいいように、言いくるめておいてやる。
タ:いつもすまんな――― 若年寄殿。
ノ:うむ、では、これにて―――・・・
〔“若年寄”とは、ラー・ジャ独特の家臣団の名称であり、そのうちの一人でもある、ノブシゲという男・・・・・
成る程、自分以上に頭が切れ、弱冠にして『緋刀・貮蓮』(ひとう・にれん)の継承権と、『女禍の魂の所持者』の護衛を勤めた経緯のあるタケルという男を、
“国外”に“流出”させたくない――――・・・・とは、タケルの実力を認めていたからこそ、吐いた言葉だったのです。〕