≪五節;『禽』のリーダー、その名は・・・“梟”(きょう)≫
〔明けて―――翌朝、普段どおりに目覚め、髪を梳(くしけず)り、衣服を整え、コみゅ・乃亜姉妹を起こし、一緒に朝食をとり、
さぁ今日は何をしよう・・・と、思案しながら、頭領執務室に行こうとした矢先―――
アヱカのお目付け役であり、婀陀那の側近でもある紫苑が、彼女を見るなり、急いで駆け寄ってきたのです。〕
紫:あぁ―――っ、アヱカ様! 丁度よいところに―――・・・
ア:あの、どうかなさったのですか? 紫苑さん。
紫:(キョロキョロ)・・・申し訳ありません、今、事情はともかく・・・・とりあえずはこちらへ―――・・・
〔何か・・・しきりに周囲(まわ)りを気にし、紫苑が誘った処は、これからアヱカが行こうとしていた、頭領執務室だったのです。
この―――・・・一種異様な・・・ただならぬ雰囲気に、図らずも緊張してしまうアヱカ。
そして、部屋に入ってみれば、なぜかしら沈痛(ちんつう)な面持ちの、婀陀那がいたわけであり・・・〕
婀:(ふぅ〜〜〜―――・・・)
ア:あの―――・・・どうかなされたのですか? 婀陀那さん。
婀:(ん―――・・・)(ギク!)ひ・・・姫君・・・。
どういう事じゃ!紫苑!! 妾は、当分面会謝絶と言いおい・・・・
紫:いいえ! 腹心である、私にも語ってもらえない事情――― 詳(つまび)らかにしていただきたいがために、
私が独断で、この方を招き寄せたのです―――。
婀:(ぐっ――― むむぅ・・・)そうじゃったか・・・・すまぬ。
ア:あの・・・本当に、何があったのです?
婀:いや――――実は・・・
〔それは――― 今現在の時間軸を遡る事、およそ11時間前――――
あの慈善事業の後片付けを放棄した、とある女性が、自宅に帰ってきたところから・・・始まるのです。〕
ナ:ふぅ〜〜〜う。(カチャ・カチャ――――カチ☆)
何とか、煙に撒いてきたけど・・・ありゃあちょっと悪いことをしちゃったかな―――・・・
明日、一番にあったら、謝っておこ・・・・(ん―――?)
―――・・・・・。
〔それは――― ここが夜ノ街・・・盗賊たちが屯(たむ)ろする、この町だからこそ・・・・であったからでしょうか――――
自分の・・・両替商の家屋に、微かに認められる、―――人の気配―――
『物盗り』・・・・と、普通ならば、そう思われるのです・・・・が――――〕
ナ:・・・・・・。
(違う――― この、気配の消し方・・・アタシと同じ、プロだ―――)
〔その時、この女性は、自分の心に、こう言ったのです・・・―――自分と同じ―――・・・だ、と。
そして、―――同じ類の訓練を受けた者が、何らかの目的で、自分の棲み家に侵入している―――と・・・・
そのことを認識した上で、通常の人間の歩き方からでは考えられない、まさに足音を殺した歩き方で、
微かに気配の感ずる方向へと忍び寄るナオミ―――
そして、タイミングを見計らって、扉を開いた先には―――― なんと、ありえない光景が・・・・
ここ二年、この地で悠々自適に暮らしてきた自分を―――・・・そんな自分を、完全に切り離してしまえる存在・・・
―――家の柱に、突き立てられた黒い紙―――
自分が、元は何者であるか―――・・・と、言う事を、瞬時に思い起こさせる・・・・
―――その黒い紙に―――
―――朱色の染料で書かれた―――
―――たった一つの文字―――
『梟』(きょう)
〕
ナ:・・・・・一体、誰がこんな事を―――
(待てよ・・・)そういえばタケルは・・・あの姫君が捕らえられて、救出された後、行き方知れずになっている・・・
それに、今、ラー・ジャに残っているのは、鵺―――ユミエのヤツだけ・・・
――――と、いうことは・・・・だ。
(一度、あそこに戻って来いと、いうこと・・・・なのかなぁ。)
まぁ――― 深く考えても仕方がないか、大体これは以前よりのコンタクト方法だし・・・
一度、戻ってみないことには、なんともいえないな―――。
〔そう―――・・・なんと、彼女、ナオミこそ、前述しておいた『禽』のリーダー“梟”(きょう)だったのです。
それにしても――――驚くべきは、あの竹林の庵から、ギルドのナオミの住まいまで・・・馬でも丸一日かかる・・・・というのに、
鵺・・・ユミエという者は、その足だけで、その行程を半日足らずで走破していたというのです。〕