≪六節;弱味≫
〔そして今は――― ナオミ自身も、黒い装束に、黒い小手、黒い脚絆(きゃはん)、黒い襟巻き―――をつけ、
完全に闇に溶け込む出で立ちで、とある場所へと向かったのです。
それは、間違いなく――― ギルド・頭領執務室へ・・・・〕
ナ:(フ・・・どこぞの城に忍び込む、のとは分けが違うから、侵入するのも容易(たやす)い―――
それより・・・・・あっ、いた―――)
〔その時に、ナオミが確認すべき点は・・・・婀陀那も無論そうだったのですが、アヱカに、今の自分を見られたくなかった―――と、言う事。
それゆえに、彼女が完全に寝付くまで、天井裏に潜んでいたのです。
そして、アヱカが寝付いたのを見計らい、おもむろに、昼間の装束へと早代わりするナオミ・・・・
そして―――〕
―――コン・コン☆―――
婀:(うん?)誰じゃ―――・・・
ナ:アタシです―――・・・
婀:なんじゃ、ナオミ殿ではないか。
――――で、こんな夜分遅くに、どうしたというのじゃ・・・・
ナ:いえ――― 実は・・・・ちょっとお話があるんですが・・・・いいですか?
婀:うん―――? ああ、構わぬよ、して・・・何用か?
ナ:(フ・・・)実は・・・アタシ、もうこの家業から、足を洗おうかと思ってるんです。
婀:・・・・・ナニ?(ピク!)
ナ:いえ・・・と、言うより、辞めなくちゃ、ならなくなった事情ができちゃったんです。
婀:・・・・・どのような。
ナ:ワケ―――・・・・ですか、故郷(くに)に残してきたオッ母さんが、急に病で倒れちゃった―――って、
家に帰ったら、そういう報せが届いてて―――・・・
婀:・・・・ナゼ、そこでそのような嘘を吐く、ナオミ殿―――・・・
〔情報の撹乱は、その収集と比べると、時には困難なものであり・・・。
そのことを、今回は、ギルド頭領の婀陀那にしてみたのですが・・・・=失敗=
早い話、嘘は見抜かれてしまったのです。
それというのも、婀陀那は、以前からこの組織で働く者に対し、それが例え今は盗賊家業をしていても、
須らく身元を調査した上で、採用する容を取っていたからなのです。
それは当然、ナオミも―――・・・〕
ナ:(フフッ――――クク・・・・)いやぁ・・・・さすがに、この程度のレベルじゃあ、信用してくれませんでしたね・・・
婀:(ぅん??)ナオミ・・・・殿?
ナ:でも―――・・・そういうことに、しちゃあもらえませんかね・・・?
婀:・・・・・・・。
ナ:列強が一つ、ヴェルノア公国王位第一継承者、公主――― 婀陀那=ナタラージャ=ヴェルノア 様。
婀:(ん・な――――っ?!!)おッ・・・・そ、そなた・・・・そのような事を・・・・どこで――――?!!
ナ:(フ・・・)まだありますよ・・・例えば、あなたの側近・・・なんて名前でしたっけねぇ・・・
ああ――――そうだ・・・確か・・・・・紫苑=ヴァーユ=コーデリア・・・・じゃなかったですかね。
婀:っっ―――・・・ぐっ!!
(な・・・なんという事じゃ――― わ、妾達の素性が・・・割れておるのか?)
ナ:それはご安心を――― 別にバラすつもりはありません・・・。
ただ、すんなりと、アタシの故郷、ラー・ジャに帰してくれるだけでいいんです。
婀:(ラ、ラー・ジャ?!!)す・・・するとそなたは―――・・・
ナ:その通り――― でも、決してスパイなんかじゃあ、ないですよ。
あたしはただ――― 二年前に、自分の故国を飛び出した、ある方の後をついて、ここまでやってきた人間なんだ・・・・
婀:(二年前―――・・・同郷・・・・?!)ス、ステラ・・・
ナ:あの時は――― うっかりと、口を滑らせてしまいました・・・お蔭で、その後、大目玉でね・・・・
それで、こんなところで、とぐろを巻いてる―――・・・って、始末なんです。
婀:うぅ・・・む。
ナ:ああ、それから――― そちらに提出しているの・・・あれ、真っ赤な贋物ですからね、処分してもらってかまいませんよ。
婀:な・・・なんと―――??
ナ:贋物を真物と見せる―――また、その逆も然り・・・。
ま、諜報の基本中の基本・・・てなところですかね。
婀:(諜報―――!!)すると、ナオミ殿・・・そなたはヴェルノアに雇われた・・・・
ナ:スパイ―――じゃあない、って言ってるでしょ?
それに、そんなヤツ――― アタシのアンテナにもかからなかった・・・・ってことですしね、
ま、大方、どこかの優秀な側近に始末された―――ってトコですかね。
婀:ち―――違うのか・・・。(ほっ・・・)
ナ:それから――― あのお姫さんには、よろしく言っといて下さい・・・・
短かったけど・・・・実に愉しくありましたよ・・・・ってね。
それじゃ―――
〔こうして――― 故国ラー・ジャから、半ば亡命同然で、夜ノ街に来ていた諜報機関の長は、
ギルドの連中に、自分達は実は何者か・・・であるのを、ひた隠しに隠していた―――頭領と、その側近―――の素性を詳(つまび)らかにし、
この会話での、イニシアチブを取ったのです。
それに、そのことは、婀陀那の望まないところ―――・・・
少し前に、故国を出奔した折に、取りざたされたある噂―――・・・
故国(くに)を出た自分を、いかなる形容(かたち)にしてでも、戻らせるよう、父王が布令を出し、
それに応えたのが、ナオミではないか―――と、思ってしまったのです。
しかし、ナオミは、その事を一切否定し――― そのうえで、“実に優秀な側近に、始末された後”だと言い・・・
その去り際には、アヱカに感謝の意を、自分になりかわり、してくれるよう頼んでおいたのです。〕