<第九十章;伝え説(かた)られ征(い)く者>
≪一節;親友(とも)の真意を見抜いた者≫
〔満身創痍になりながらも、西の列強の王都が壊滅した旨を伝えにきた者を見るなり、
タケルはすぐにでも、援助のための軍を派遣しようとしていました。
けれども、自分より自分の故国の者達の気骨を理解していた、
女皇陛下によりその願いは取り下げられ・・・
―――ですがしかし・・・
よく冷静になって考えてみては―――とのお言葉に、
果たして、そこで使い番の屍を改めてみたところ、
コンゴウに落ち延びる―――との由をようやく知るにいたり、
そこで改めて・・・の、戦略の練り直しが図られたのです。
その一方で―――黒き国、カ・ルマの本拠 コキュートス では・・・〕
サ:ふむ―――よくやったベリウス、褒美を与えようぞ。
べ:ありがたき幸せ―――
フフ・・・それにしても、手ごたえのないヤツらではあったわ。
ジ:けれども・・・ある報告によっては―――
誰一人として大王閣下の軍に背を見せて屍を曝さなかった・・・と、ありますが。
べ:―――何が云いたいか・・・
ジ:・・別に―――ただ、素直な意見を述べたまでのコト・・・
気に障られたのであれば、陳謝いたしましょう。
〔一国の都を陥(お)としたことで、カ・ルマ総帥サウロンより褒賞の辞(ことば)を承る、魔将・ベリウス・・・
すると、そこで彼は、かの国の兵の死に様を伝えたのです。
あたら敵わぬ―――と、判りきっているはずなのに、次々と無抵抗のうちに狩られていく、ラージャの将兵たち・・・
それを、魔将にしてみれば快感の何者でもないとし―――
実に小気味がよかった・・・とまで云っていたのです。
しかし―――それを聴いていた黒の宰相・・・ジィルガは、彼らとはまったく違った見解を示し、
折角、自身の武の愉悦に浸っていた魔将の機嫌を、少なからず損ねてしまったのです。
すると、それを見たある者が―――〕
ビ:・・・まあ待ちたまえ―――
べ:ビューネイ―――・・・
ビ:大王閣下が推奨のお辞(ことば)を述べておられるのだ。
何も殺気立たずともよいとは思うのだが・・・
べ:―――だが! しかし・・・!!
ビ:ジィルガ―――あなたも少しは言葉を選びたまえ。
今のは誰が聞いても、面白からぬものだったぞ・・・
ジ:はっ―――・・・以後、気をつけいたします。
〔七魔将の筆頭であるビューネイは、推奨の場で殺気立つ者同士の気を静めさせ、
また、不当な言葉を述べた者に対し、注意を喚起したのです。
そして陳謝の言葉を述べさせたあと、その場から去った黒の宰相を、横目で流しながら・・・〕
ビ:・・・彼女はな、復活したまではよいものの、その有り余るチカラを解放できず、
また―――貴君らの活躍ぶりを聞いて、悋気を病んでいるのだ。
貴君らも知っていよう―――彼女の有する、強力無比な魔術の数々を・・・
あの・・・私でさえ身震いするほどの術式の数々が、これからわれらのために有用に働くというのだ―――
ここは一つ、瑣末なことは気にしないようにしようじゃあないか・・・。
〔ビューネイは知っていました・・・。
いえ―――彼だけにかかわらず、そこにいた魔将の誰もが、
マエストロ・デルフィーネの行使する魔術には手を焼かされてきたことに、
古(いにし)えにて忘れかけていたことに、戦慄(おのの)きを蘇らせたものだったのです。〕