≪六節;伝承斯くの如し≫

 

 

〔その一方で―――ようやく『帝國の双璧』≪鑓≫への案内役を務めるという、

少女―――ヱリヤの居住を突き止めたタケルは・・・〕

 

 

タ:(ふぅむ・・・それにしても、『帝國の双璧』≪鑓≫と、『ゾハルの主』とが、同一人物だったとは・・・

  しかもその案内役も、渉りをつけやすいように、ゾハル山の麓の町・・・エルの町・カピスに住まわせているとは・・・)

 

――〜 コン〜☆          コン〜☆ ――

 

>はい・・・どちらさまでしょう―――<

 

 

〔やはり、少女ヱリヤの居住の前にいた巨漢とは、タケルでした・・・。

それにしてもなぜ、彼がこの場所を突き止めることができたのか―――

けれどもそれは・・・=禽=の情報網を最大限に活用させ、

苦心の末に突き止めることができたのは、説明の余地すらないことでしょう。

 

そして―――来訪者がいることを、扉を叩いて知らせたところ・・・

居住の奥のほうからは、なんともか細く弱弱しい返事が・・・

 

すると―――扉が少しだけ開かれ、こちらを伺うかのように、覗き見る眸が・・・

 

それを見たタケルは、すぐさま片膝をついて身を屈め―――

ここに住まうという少女と同じ目線にあわせ・・・〕

 

 

タ:まこと不躾ながら・・・お尋ねいたし申す―――

  こちらにお住まいであられるのは、かの『帝國の双璧』≪鑓≫への案内役を仰せ付かっている御仁でありましょうや―――

 

ヱ:(ビクッ!)帝國の・・・双璧・・・!!?(ワナワナ・・)

  イ・・・イヤですっ―――! そんなの・・・知りません・・・!

  第一、あの存在を呼び起こすということは、これから多くの人命を捧げるということ・・・

  その初めに、アトーカシャ家の少女を犠牲に奉るというのは、古くからのこの家の慣わし・・・

 

  そんなのイヤです―――! 帰ってください・・・! 私はまだ・・・死にたくはない―――!!

 

 

〔その少女―――ヱリヤの家の名は、『アトーカシャ』と云うようでした・・・

―――が・・・しかしそこには、なんとも哀切な・・・“悪習”とでも云うべき、

忌まわしい慣わしがあったのです。

 

そう―――その・・・『帝國の双璧』≪鑓≫を呼び起こすというのは、

同時にそれなりの等価が必要だ・・・と、云うこと―――

 

しかも、それはタケルでさえも信じずにはいられなかったコト・・・

事実―――≪鑓≫なる者は、現在においても、古代の帝國・シャクラディアの英雄であることが知られ―――

そのことは同時に、一番多くの敵兵を滅してきたということ・・・

 

もう少し酷薄な物云いをすれば・・・“多くの生命を簒奪せしめた者”―――・・・

 

その一番最初に捧げられる=贄=こそが、アトーカシャ家の―――この少女だ・・・と、云うのです。

 

そのことを知ったタケルは―――・・・〕

 

 

タ:なるほど・・・やはりそのようなことが―――

  では、“案内役”というのも、その実は自らが生贄となることだったのですね・・・。

 

  それは申し訳のないことを―――・・・

  ですが、ワシとしては、ワシの主たるお方から、どうしても『帝國の双璧』の≪鑓≫―――

  その方を招聘せよ・・・と―――

 

ヱ:(ナニ・・・?)

 

タ:その証拠に―――(ゴソ・・)

  この書付は、本来ならば『帝國の双璧』≪鑓≫ご本人様への親書ではあるのですが・・・

  “案内役”であるあなた様にも、お一つお目通しをしてからでもかまいませんでしょう・・・

 

ヱ:・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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