<第九十二章;吸血城>
≪一節;故郷より―――≫
〔この度パライソの女皇が、強力無比な勢力を味方に加えるのに際し、
一方はサ・ライ国にある=霊峰・ゾハル=に・・・
そのまた一方は―――ゾハル山とは真反対の地にある、
クー・ナ と ハイネス・ブルグ に跨(またが)るようにして存在しうる、ある怪異の杜・・・
別の名を“迷いの杜”などと云われて、近隣の住民からは畏れられている・・・
=ヴァルドノフスクの杜=
この杜には、古くからの云い伝えにより、この杜の奥深くにある渓谷に 城 を持つ者・・・
不老不死を誇り、“夜魔の王”として畏れられ、総ての不死を統率せし者・・・
ヴァンパイア
が、領域<テリトリー>と定めている処だったのです。
そして今回―――奇しくも、この存在と渉りをつけようとしていたのが・・・〕
兵:録尚書事様―――唯今ヴェルノアより、公主様ご一同が到着された模様でございます。
婀:おお―――もう参ったのか、すぐにお通しいたせ。
〔なんと―――この時期に、軍事大国として知られているヴェルノア公国の公主が、突如の訪問をしてきたのです。
・・・と―――そう思いきや、今、パライソ国の録尚書事である婀陀那からは、
何かを仄めかせる様な言葉が述べられたのです。
そう・・・実は―――
この度の招聘状・・・『帝國の双璧』の≪楯≫である ヴァルドノフスク城・城主 なる者に、
直(じか)に交渉する役を承ったのは、ゾハルの主への案内役と交渉を行った者の妻・・・
それが婀陀那だったのです。
それにしても、ナゼ彼女が自分の出身の国より、その国の国主を呼び寄せた・・・?
その真意が―――・・・〕
公:しばらくぶりじゃな・・・妾や母国の恥とならぬよう、勤めておるか―――
婀:フフ・・・それこそ杞憂と云ったものじゃ―――
そちらこそ、一癖もある臣下から足下をすくわれておらぬかな。
〔まったく驚くべきことに―――ヴェルノアの公主様と、パライソ国の録尚書事とは、
どちらがご本人であるか―――という疑いさえ、払拭しかねないほど酷似をしていたのです。〕