≪二節;真贋問答≫
〔それにしても、この光景を間近で見ていた、パライソ国・尚書令であるイセリアは、
驚嘆しながらも、ある事実に気付いたのです。
――嗚呼、成る程・・・ここまで似ていれば、あのリリアが間違えるのも是非はない――
――しかし・・・無論“影”はあちらの方なのでしょうけれど・・・――
――ここまで似てしまえば、こちらの婀陀那様もご本人であるかどうかさえ、疑わしいのだわ・・・――
そう―――・・・この二人の婀陀那のうち、確実にどちらかが本人を真似た“影武者”であるということは、疑いようのないこと・・・
けれど、ここまで―――・・・顔・身体の造りや、言葉のイントネーション・訛り・感情の起伏、果ては仕草など・・・
どちらも甲乙つけがたかったために、イセリアでさえ惑わされてしまったのです。
しかし、例えそうであったとしても、ヴェルノアの公主様とて、今では大事な客分であるがゆえに、
当パライソ国の国主である、女皇陛下と接見をするのですが―――・・・〕
ア:お待ち申しておりました―――わたくしが当国家、パラ・イソの女皇である、
アヱカ=ラー=ガラドリエルと、申す者でございます。
公:おお―――これは姫君・・・あ、いや、今はその言葉は妥当ではございませんでしたな。
パライソ国の女皇陛下殿・・・
ア:いえ・・・それより、刻の流れとは、斯くも畏ろしいものでございます・・・。
以前には、わたくしが公主様の国へご訪問をした際には、フ国の大鴻臚という身分でしたのに・・・
それが、今は―――・・・
公:ナニ―――気にすることではございませぬ。
今までは、立場上そうなっていただけの話し・・・妾たちの友誼が、それしきのことで崩れようはずもございませんでしょう。
そう、もう一人の妾からも申されてはいませんでしたかな。
ア:―――・・・。
公:(ん・・・?)アヱカ―――女皇様?
ア:ああ・・・いえ―――少々考え事をしておりまして・・・
〔殊の外、パライソ国の女皇と、ヴェルノア公国の公主とは、親密な間柄であった・・・
―――とは、某国の公主に酷似している、当国の録尚書事との関係を見ても判ることでもありました。
けれども、そこで何某かのコトに捉われたアヱカは、なぜかしら公主を見つめ―――
そのことの疑惑に駆られた公主は、女皇に呼びかけをしたところ・・・“考え事をしていた”―――と、だけ・・・
しかし次には、皆が思っていることと同様の言葉を紡がれたのです。
―――ともあれ、女皇陛下と接見をし終えた公主は、再びパライソ国・録尚書事の前に立ち・・・〕
婀:申し訳ないのじゃが―――此度そなたを呼び寄せたのは他でもない・・・
妾達の国、ヴェルノアがある東方面にて、ある伝承をして語られておる“あの者”のことなのじゃが・・・
公:“あの者”とは・・・それはもしやすると、“城主”のことではあるまいよなぁ。
そなた―――よもやとは思うが・・・妾に贄になれ―――と、でも?
婀:いやいや―――そうではない・・・。
ただ、この度陛下が招聘されようとしている『帝國の双璧』の≪楯≫だと申すお方が、
かの“城主”だと申すのだそうでな・・・。
公:なんと・・・あの“城主”が、『帝國の双璧』の一つと申すのか?! 果てまた奇遇な・・・
婀:そこでじゃ―――西方面におるとされておる≪鑓≫なる存在は、妾の旦那がなされる手筈になっておるのでな。
ここは一つ、妾の方でも骨を折ってみようか―――と・・・まあ、こういうわけなのじゃ。
公:やれやれ―――それでは、先ほど妾が申し述べたこと、そのままではないか・・・
この国の録尚書事であるそなたが政務を放って―――と、云うわけにはいくまい。
〔その場で、パライソ国・録尚書事である婀陀那は、
この度自分の分身とでも云える、ヴェルノア公国公主を呼び寄せた理由を明かせました。
そう―――自分の夫であるタケルが、危険だとは知りながらも、
“ゾハルの主”とも呼ばれている『帝国の双璧』≪鑓≫を説き伏せるため、サ・ライの国を訪れている・・・
ならば、タケルの妻である自分は、同じくして“ヴァルドノフスクの城主”とも呼ばれている≪楯≫を説き伏せんがため、
その場所へと向かおう―――と、云うことだったのですが・・・
国が国として成り立って間もない頃だったがために、多くの制定しなければならない制度や法も多様にしてある・・・
そんなときに、中心となってやってきている自分が抜けてしまっては、まとまるものもまとまらない・・・と、思い、
自分と容姿の酷似した公主を使者役として立てよう―――と、云うことだったのです。〕