≪三節;布陣≫
〔それからというもの―――作戦会議においては、概ね次のことが決定しました。
西方の旧ガク州・ギ州方面並びに、ラージャの一地方でもあるコンゴウを防衛とするのに、
方面統括指揮官には、衛将軍となった 紫苑=ヴァーユ=コーデリア を据え置き、
安西将軍(旧ギ州公);コウ=ジョ=タルタロス
虎髯(こぜん)将軍;ヒ=チョウ=ベイガン
元・ガク州州司馬;キリエ=クゥオシム=アグリシャス
元・ラージャ国若年寄;ノブシゲ=弾正=タイラー
元・ラージャ国大目付;チカラ=左近=シノーラ
・・・など、元々その方面の戦闘で功績のあった者達が、軒並みに名を連ねていたのです。
また、東方のハイネスブルグ・旧ジン州・旧レイ州方面の防衛には、
方面統括指揮官に、統北将軍に就任した イセリア=ワイトスノゥ=ドクラノフ を据え置き、
統東将軍;リリア=クレシェント=メリアドール
統西将軍;セシル=ベルフラワー=ティンジェル
安北将軍(旧ジン州公);カ=カク=ハミルトン
平北将軍(旧チ州公);ソン=リク=アブラハム
・・・サヤ某や、果ては玖留津(クルツ)・筮屡拿(ゼルダ)―――と、云ったような顔ぶれが揃えられていたのです。
けれども不思議なのは、この戦略自体を打ち立てた者と、軍事大国の主はそこには名を連ねるでもなく・・・〕
婀:フッ―――お主ら、両方面の攻略にその名がないゆえに、妾と夫が戦場に出ぬまま高みの見物を決め込んでおる―――
・・・と、そう思うておるのではあるまいよなぁ。
まあ――― 一つに云える事は、妾もその夫も女皇陛下の御許(おんもと)を離れるのは妥当ではない・・・と、考えておる。
―――が、同時に、これより死地に赴かんとする諸兄らに対しても、相応しくない・・・とも考えておる。
故に、大本営であるシャクラディアに次ぐ 本営 を、旧・フ国王都である ウェオブリ に設け、
妾たちはここに常駐することとしたのじゃ。
ここなれば各方面の戦況報告や、シャクラディアの中央官吏共と、満遍なくの意思の疎通も図れるものじゃとも思うておる。
いかがかな―――異存はありますまい。
〔そこには名を連ねていない―――のではなく、パライソ国女皇の下を離れるわけにはいかないとはしながらも、
これから戦地に赴く者達のため・・・延(ひ)いては、その場所に自分たちが赴くことにより、将兵の士気を高める役目を担うことを、
彼ら自身だけではなく、その場にいた将官たちは感じていくのでした。
そして―――これから各方面に向かう前に、大都督よりの最後の言葉が・・・〕
婀:それとあと一つ―――これより各方面には、遅まきながらも陛下のご意向によりこの度召還なされた、
『帝國の双璧』である≪鑓≫と≪楯≫の二将軍が赴くことになろうと思うから、くれぐれも粗相のないように・・・な。
〔パライソの将官の多くは、その存在たちが来ることが判りはしていても、此度より新たに参内する者達までは伝えられていなかったため、
ここで改めての注意が、大都督である婀陀那より促されたのです。
するとやはり―――他所よりの新参内者たちは、挙(こぞ)って色めき立ちました・・・
勿論彼らも、口伝や伝記物などで『帝國の双璧』の活躍ぶりは知ってはいたのですか、
いざとなると、昔語りに出てくるような、そんな架空とも思える人物が・・・?
―――とも思えなくもなかったようです。
しかし婀陀那は・・・いや、彼女だけに係わらず、パライソの将官の多くでも、
あたら女皇陛下が、このような時期に戯れを仰られる方ではないことや、
また普段からも、他者を担ぐようなマネをされる方ではないことを知っていました。
つまり・・・伝説上とまで謳われているかの二つの存在こそは、
現在までもそのレゾンデートル(存在の意義)を醸し続けている者達であるということを、
暗に仄めかしていたのです。〕