≪四節;行軍を観る者達≫
〔それはそれとして―――では、例の二人は・・・と云うと。
少女ヱリヤは、『帝國の双璧』≪鑓≫である“ゾハルの主”を迎え入れるために訪れたタケルに促され、
かの存在をその身に憑依させたあと、三日という時間をかけてパライソに入国をしていました。
そんな中―――ある光景に出くわしたのです。〕
ヱ:―――あら?
タ:どうされましたか、ヱリヤ様。
ヱ:いえ・・・あれを―――
タ:ふむ、この街道を使うとなると・・・あれは西方に向かうための行軍のようですな―――
ヱ:・・・また―――多くの生命が、失われていくのですね・・・。
タ:・・・致し方のないことでしょう―――
こちらが眼を瞑ってしまえば、それだけカルマの侵攻を許してしまうことになりますから。
そして、それは同時に、力の無い民たちの命が損なわれていくことになっていくのです。
彼らから無意味とも思えるようなものを巻き上げておきながら、いざ危険に曝されると見棄ててしまう・・・
それはカルマの侵攻を許してしまうことよりも、罪過なことでもあるのです。
それだけは慎まなければ―――・・・
ヱ:・・・あなたは、“税”というものの見方をそのように捉えているのですね。
でも、私は血生臭いことは嫌いです。
タ:『帝國の双璧』≪鑓≫をその身に憑依させたあなた・・・でも?
ヱ:それとこれとは関係ありません―――・・・
ただ、私自身―――血の臭いというのが嫌いですから・・・
けれども・・・だとしても、“ゾハルの主”は私の意思とは関係なく、戦の度に私の身体から出てくるのでしょうね・・・。
〔実際―――彼女自身、血の臭いというものは嫌いでした。
あの色・・・鼻を衝くような酸鼻な臭い―――
そんなものが苦手でありながら、“古(いにし)えの帝國”であるシャクラディアでは一・二を争う高級武官=驃騎将軍=に就いていた・・・
“そんな高級官職は私には不適合です―――”
そう云って、当時=丞相=を務めていた方に反論をしたのですが、
“破壊性と速度があるから、あなたにこれ以上似合いの職務は無い―――”
・・・と、云われ、仕方なくその官位に収まっていた―――
“破壊性”―――? “速度”―――?
あれは・・・私が血というものが嫌いだから―――臭いが鼻を衝く前に収まらせたいと思い、そうしていたこと・・・
でも、皮肉にも、彼女以上の“破壊”と“速度”を兼ね備えていた武将は、当時でも少なかったのです。
その一方―――同じく別方面よりパライソに入国をしていた“ヴェルノアの公主”とエルムは・・・〕
エ:ほおぉ~~こいつは壮観だねぇ―――♪
公:こちらの方面・・・と云うことは、東方―――クーナのカルマに拮抗するためのもののようじゃな。
エ:―――・・・・。
公:(うん?)エルム様・・・?いかがなされたか―――
エ:ん? ああ・・・いや―――?
あの中の・・・一体どれだけが、再びこの地を踏むことになるんだろうかね・・・そう思っちゃってね。
公:―――エルム様・・・
エ:フッ―――なんだか、柄にもないようなことを云っちまったようだね。
〔この方は―――迎えに訪れたときに見せた“戦闘狂”宛(さなが)らの一面も見せれば、
今のように多くの将士が傷つき、斃(たお)れて逝くことに哀惜の念を募らせてもいる・・・
ヴェルノアの公主は、相反する二面性を持つ“ヴァルドノフスクの城主”の性格に、どことなく惹かれていきました。
それに・・・エルムは、自身がヴァンパイアでもあることから、
これから起こる戦闘が、自分たちがいた時代の それ 以上に過酷になるであろうことを、
薄々ながら感じていたのかも知れません―――
また、それにより・・・自身に隠された秘密までもが、曝け出されると云うことも、
或いはこの時点で、感じていたのかも知れません―――・・・〕