<第九十五章;万人の敵>
≪一節;虜囚≫
〔自分の気にそぐわないから―――と、その場から足を遠ざけた者がいました・・・
その存在を、例え嫌がったとしても無理矢理連れ戻すから・・・と、やはりこの場からいなくなった者がいました。
その様子を―――固唾を呑む気持ちで見守る者達もいれば、“いつもの調子だ”―――と、仰られる方もいました。
けれども・・・結果としては、今回招致しようとした者達は、この場には残ってはおらず、
本当に―――“ヴァルドノフスクの城主”は、“ゾハルの主”を説得して連れ戻せるのだろうか・・・
いや、あの調子だったのだから、人目のつかない処で本当に流血沙汰になり、
どちらかがどちらかを傷つけるまでやめないのでは―――・・・
シャクラディアでは、そんな憶測が飛び交っていたのです。
閑話休題―――
カルマによるパライソ侵攻が現実のものとなり、今―――コキュートスから各方面へ向けての軍馬が、一斉に繰り出されていたのです。
これは・・・その 先遣隊 ―――とでも云うべくの、一軍の陣中での様子・・・
突如として、ある者を手土産に持参してきた―――と、云って現れた女性は、
夜営をしているこの軍の指揮官の前に、鎖で縛り上げたあの 少女 ―――を、引き連れてやってきました・・・。
その女性は―――斯くも妖艶な・・・危険な香りのする、あの 女性 ・・・〕
バ:(バドラック;今回この先遣隊を率いる隊長。ちなみに人間ではない・・・)
―――むん? 何者だ・・・お前は。
エ:これはど〜も―――♪
いえね? 何でも、この度カルマ軍が愈々(いよいよ)この大陸を統一する軍を動かせてる―――って、風の噂で聞いたもんでさぁ〜
それでねぇ・・・この私も、是非ともその軍の中に加えてもらいたくってさぁ―――相談に来たんだよ・・・。
バ:ほほう―――それは殊勝な心がけだ・・・だが、その鎖で縛り上げている小娘は何者なのだ?
エ:ン・フフフ―――・・・いえね? この私も、何も手ぶらでカルマ軍に加わるんじゃ悪いと思ってさぁ・・・
そこで―――この度、向こうさんに付こうとしていた将の一人を、手土産に持ってきた・・・ってコトなのさ。
〔しかし―――その“妖艶で危険な香りのする女性”とは、
腹を立ててシャクラディア城から去った≪鑓≫を、何とか説得しよう―――と、試みたはず・・・の、
あの エルム=シュターデン=カーミラ だったのです。
すると・・・云うことは―――そう、“鎖で縛り上げられている少女”とは、紛れもなく ヱリヤ=プレイズ=アトーカシャ のコト・・・
ところが、大いなる疑問がここに―――・・・
それというのも、互いに逼迫する実力を持ちうる両者が、どうしてこうも簡単に―――・・・
云うなれば無傷で囚われの身となっているかということなのですが・・・〕