≪二節;海老で鯛を釣る≫
〔―――とは云え、無念にも虜囚と成り果ててしまったからなのか、ヱリヤからは悔恨の情がその口から洩れ・・・〕
ヱ:くうぅっ―――! 無念だ・・・わ、私がこんなヤツに屈せられようとは・・・!
ガッ―――☆
エ:口の利き方に気をつけな―――お前・・・は、もはやすでに虜・・・
無様に地べたに這い蹲(つくば)っている姿がお似合いなんだよ―――!
ヱ:うぅっ〜く―――・・・わ・・・私に、もう少しばかり甲斐性というものが残っていさえすれば・・・
あのお方に、過ぎたる心配などかけさせなかったものを―――全くもって無念だ!!
エ:あ〜っはっはっは―――! 今更後悔しても遅いんだよ・・・
それにしても・・・なんだねぇ―――向こうさんも、こんなチビガキを将の一人に加えるだなんて・・・
もう、こいつは先が見えたも同じだねぇ―――・・・
〔今の、彼女たちのやり取りにウソ偽りが一切なければ、ヱリヤは難なくしてエルムの軍門に下り、易々と捕縛の対象となってしまった・・・
『双璧』の一人が―――そのまた一人に難なく屈し、易々と捕縛の対象となる・・・??
これほど不可思議なことがあってよいものなのでしょうか―――・・・
いえ、実はそれこそが―――・・・
そうとは知らず―――諸手を挙げてこのことを喜びだにする、先遣隊の隊長は・・・〕
バ:ハッハッハハ―――そうか、そいつは手柄だったな。
さぞやわが主であるヴァッサーゴ様もお慶びになられることであろう。
ヱ:(―――ナニ?)
エ:えっ・・・? ちょいとお待ちよ―――? 今・・・なんだって??
バ:うん?どうした―――
エ:あ・・・いや―――その、あんたの主様・・・って、え??
バ:ヴァッサーゴ様―――だが?
エ:あ゛〜〜・・・そのヴァッサーゴ―――様・・・って、確かベリアスんとこの副将であるボクオーンの・・・
部下であるモロクのそのまた部下であるマモンのそのまた部下・・・だよねぇ?
バ:その通りだが・・・? まあ―――そなたの今回の働きは、必ずや上層の方に報告を・・・
―― すると突然 ――
フフフ―――・・・
ハハハ―――・・・
ハ〜ッハッハッハ―――!
バ:ナニがおかしいか! この無礼者が―――!
ヱ:はは・・・ああ〜いやいや―――そうか・・・まさか魔将の部下の部下のそのまた部下の、そのまた部下の部下の陣だった・・・とはなぁ。
やれやれ―――あたら丞相の真似事をして潜り込んだ・・・までは良かったが、
これでは“海老で鯛を釣る”―――どころか、餌代のほうが高くついてしまったわけだ・・・
バ:な―――なんだと?! おい、貴様・・・戯言を云うのも大概に―――
ヱ:フッ・・・なあ、お前――― 一つ訊くところがあるのだが・・・
〔今回の、カルマからのパライソ侵攻第一先遣隊の陣は、七魔将の一人であるベリアスの部下の部下・・・
それならばまだしも、それらよりもいくつも階級が下がった者の率いる一軍であったということが、その場で判明してしまったのです。
すると・・・そのことを知るなり、囚われの将であるはずのヱリヤは―――突如嗤い出し、
なんと、今回の作戦が失敗まではしなくとも、不成功に終わったことを述べたのです。
それにしても・・・“失敗”ではない“不成功”とは?
それは―――ヱリヤが云っていたことにも係わりがあるのですが・・・
彼女たちが崇(あが)める=丞相=なる存在が、殊の外こういった戦略に長けた人物であり、
ヱリヤもまた、それに倣って今回の作戦を実行に移した―――・・・
いや―――そも、ヱリヤは、自分の気にそぐわなかったから、女皇の前であっても自主的にシャクラディア城から退去をしたはず・・・
―――だったのですが、実は・・・ヱリヤが、いえ、ヱリヤだけに拘らず、もう一人ある者―――そのある者よりの協力も得て・・・
それに、この先遣隊がこの場所に来ていることを、すでに察知していた―――・・・
そう―――ヱリヤは、その先遣隊には必ず、ベリアスまでではないにしても、彼に准ずる副将レベルの者がいるものと思っていた・・・
なのに―――・・・
殊の外粒の小さい将だったことに対する、いわば“失笑”をそこでしてしまっていたのです。〕