≪三節;“カケス”と女皇と公主≫
〔―――ところで・・・そのときより数分前の女皇の私室では・・・
二人の―――同じ容姿をした者、ヴェルノアの公主とその影武者が、アヱカを交えての三者懇談をしているのでした。〕
ア:婀陀那さん、よく今回の件を引き受けてくださいましたね。
婀:いえ・・・この国の頂点におられる姫君のことを思えば、妾の苦労もさしたるものではございませぬ。
ア:―――それより、改まった話しとは、一体何のことでございましょう。
婀:実は―――もう一人の、この妾のことでございます。
あなた様もすでにご存知の通り、妾に恐ろしく良く似たこの者こそ、妾の影である ルリ=オクタ=ガートランド ございます。
ル:・・・それからあと一つ補足を―――
私は・・・いえ、この私 も 女皇陛下直属の部下である、タケル様お抱えの=禽=の一羽“カケス”なのです。
〔そう・・・今更―――と、云うこともないのですが、ルリは元々タケルの下に集う=禽=の構成員の一人、
その元々の指名とは、軍事大国であるヴェルノア公国に潜り込み、具(つぶさ)にその内容を主に伝える・・・と、云う、
いわゆる諜報員宛(さなが)らの活動をしていたものだったのです。
ところが―――今の告白を受けた婀陀那は・・・
実は婀陀那も、ルリの“物真似”の業を見たときに只者ではない―――とは思っていたようですが、
それがよもや、自分の夫であるタケルが抱えている集団の一人だとは、思ってもいなかったようです。
けれども、婀陀那はそんなルリを責めはしませんでした。
それというのも、自分たちを欺き通した―――と、云うことよりも、もしルリが自分の代わりをやってくれていなかったら、
今頃故国であるヴェルノアは、近隣の列強により分割統治されていただろうから・・・
そのことの感謝のほうが大きかったからなのです。
―――さても、ではどうして婀陀那がルリを・・・ルリも自分の正体を暴いて見せたのか・・・
それは―――・・・〕
婀:姫君も、今という時期がどれほど逼迫されておるかは判っておられるはず、
それゆえ、これから何かとお忙しくなられるのは眼に見えておりまする―――
それに・・・女皇陛下であるあなた様のお身体は、お一つのみ・・・到底事足りるものだとは、妾は思ってはおりませぬ。
そこで―――今まで妾の身代わりを果たしてくれたルリを、此度からはあなた様のほうで有用に活用してもらいたい・・・と。
ア:―――まあ、そんな・・・でも、それでは今度からは婀陀那さんの身代わりは・・・
婀:妾は―――もう十分に、妾自身のやりたいと思ってきたことをやってまいりました・・・
あなた様も、やりたい―――と、思っていることが沢山おありなのでしょう。
ア:・・・そう云ってもらえるのであれば、ありがたい―――役立たせてもらうとするよ。
〔『この方のこの話し方―――』ルリは、傍で会話のやり取りを聞いていて、アヱカのこの特性にすぐに気付きました。
時には、淑女のようなそれでありながら、次の瞬間にはどことなく違う―――・・・利発にて凛としたような話し方・・・
実はそのことは、アヱカ本人と―――ある方・・・“古(いにし)えの皇・女禍”が一緒にいるからなのですが、
そのことは、婀陀那はもとよりルリ・・・況(ま)してやタケル出さえも知らなかったことなので、仕方のないことでもあったのです。
―――ともあれ、婀陀那がアヱカに持ちかけてきた相談とは、今まで立派に自分の影武者を果たしてくれたルリを、
この時点からアヱカの・・・パライソ国女皇の影武者として、取り計らおうとしていたのです。〕