≪四節;二人の女皇≫
〔こうして―――最も見破られにくい、“女皇の影”が出来上がったのですが・・・
その直後、この部屋の前が少しばかり騒がしくなったので、その理由を質すべく、当事者同士に入室の許可を出したのです。
すると―――・・・〕
紅:―――失礼・・・
婀:―――ん? そなたは・・・?
皇:どちらさまでしょう。
ア:―――・・・。
〔当事者の一人である、真紅の騎士が入室したのと同時に眼にしたのは―――
この世にたった一人しかいない―――はずの、パライソ国女皇・・・と、その方に酷似した もう一人 ―――
こんな不可思議なことがあるものなのか―――・・・
普段から女皇を見慣れている葵や茜ですら、その異様な光景には戸惑いすらしました。
けれども―――・・・この真紅の騎士は、以前女皇にお会いしたことでもあったかのように、
迷いや戸惑いすら見せずに、本物であるアヱカの前まで歩み寄り、跪(ひざまず)いて見せたのです。〕
紅:―――この度、女皇陛下の真摯な呼びかけに応じながらも、遅きに失しました不届き者にございます・・・
ア:・・・相変わらず、だねヱリヤ―――
そうは云っても、お前が遅くなってしまったのは、カルマの第一先遣隊を退けてきたからじゃないのかな。
ヱ:はは―――主上におかれましては、小官の考えなどすでにお見通しでございましたか。
しかし・・・陛下のご心労、少しばかり安んぜようと思っていましたものを―――いかばかりか小(ちい)そうございました。
婀:なんと・・・それではそなたが、この度招聘された『双璧』の一人であると申されるのか。
それに・・・もうすでにカルマの先遣隊と一戦交えてきたとは―――すると、かの国はすでに・・・
ヱ:―――大将軍殿・・・そのようなことで驚かれては、身体が保(も)ちませんぞ。
それに、本来戦というのは『欺き欺かれ』・・・そして最後まで欺き通してきた方の勝ちとなるものなのだ。
そこで私も、今回はある方の手法を真似て諸君らをも欺き通した―――と、思ったのだが・・・
向こうは思いのほか小さくてな・・・ただ、それだけのことなのだ―――
皇:そうは云いますけれども・・・先遣隊とは云え、相手はあのカルマ―――それを・・・どうして小さかった、などと。
ヱ:・・・なるほどな、そなたが此度からこの方の容姿を真似て、この方に近づく災厄の身代わりとなる“影”―――か。
まだそのお役目に就いて間もないからか、不慣れなようではあるが・・・まあ、直(じき)に慣れてくるだろう。
それよりも・・・その先遣隊を討ってきた証拠をこれに―――
〔そう・・・その 真紅の騎士 の正体こそ、今回女皇の招聘に応じた・・・『帝國の双璧』≪鑓≫であり、大尉・驃騎将軍でもあるヱリヤなのでした。
しかしヱリヤは、同様の容姿をしている二人の女皇を目の前にしても、
何一つ身動(みじろ)ぐ構えすら見せずに、本当のアヱカの前で跪(ひざまず)いて見せたのです。
でもそれは―――・・・今ヱリヤが跪(ひざまず)いている方が、かつての主であると確信をしたから・・・
では、それは何を持って―――?
それは・・・そこには理由だに存在し得ませんでした。
あえて云うのならば、直感―――・・・
けれども、それだけで事足りることを、すでに築き上げていた―――とするならば、よほど強くも深い絆であることが窺(うかが)い知れるのです。〕