≪二節;万人の“笑い”よりも・・・≫
〔その一方―――今回の催しの最上座に陣取る、二人の女皇と主賓の一人であるヱリヤは・・・〕
皇:・・・どうやら、何事かあったようですね―――
ア:・・・みたいだね―――
ヱ:別に、些細なことでしょう。
例えば、今回出品されている器に手を出している、マナーのなっていないヤツ―――・・・
お前のことだ!シュターデン―――!!
皇:(い゛い゛い゛・・・)ち―――ちっょと・・・ヱリヤ様?
エ:あ―――あっぶないぢゃないのよさ〜〜!
私のこんなかわう〜いお手手に、風穴を開けてどうしようってんだい?!
――〜白い目〜――
エ:え゛っ?! あっ・・・あれぇ〜〜?! な―――なんで、ど〜してみんなして静まり返っちゃうんだよ〜!
いぁ〜ん、そんな眼で見つめられちゃ、エルムちゃんまいっちんグゥ〜〜―――!
――〜しらぁ〜――
エ:え゛・・・え゛ぇ〜っ? い・・・今の新ネタだったんだよ〜?
ヤダ―――ウソ―――信じらんなぁ〜い!
ヱ:シュターデン――ヤケドをするならお前一人だけにしてくれよ・・・。
――〜wどっ!w〜――
エ:あ・・・あれぇ〜?! ちょいと―――皆に嗤われてるぢゃないよ〜!
ヱ:いいんじゃないのか―――元からそうするのが目的だったんだろう。
エ:そりゃ〜そうなんだけどさぁ―――私の真の目的は、皆を笑わせることであって、(チラ)皆から嗤われることじゃ〜・・・(チラ)
皇:・・・そうでしたか―――それは仕方が・・・
ア:ダメだよ―――そんなこと云ったりして、甘やかせたりしちゃ。
まあ、目的は立派だとしても、手段としての行為が褒められるべきではないね。
それに・・・お前たちを迎える催し――― 一体どこの誰が料理をつまみ食いして遅れてしまったのかな・・・。
エ:うい゛ぃぃ・・・しょ―――しょれはぁ〜〜・・・
ア:ま―――罪を感じているんだったら、今後は私の側に座ってじっとしていなさい。
そして皆に、『今回悪さをしたのは自分です』という意思を前面に出して、皆に謝罪をするんだ―――
〔今回の一連の『つまみ食い事件』の真犯人が誰であるかを知っていた者は、大勢の人影に紛れてその行為をしていた者の手を、
自らが持つ鑓で刺し貫こうとしていました。
けれど、あわよ―――と、云うところで、主賓席の皿に忍び寄ろうとしていた手は引っ込められてしまい。
代わりに、この過激な行為に驚いて“透明化”の術が解けてしまった人物―――
云うなれば、この人物こそこの騒動の発起人であり、またヱリヤと同席をしていなければならない
――エルム=シュターデン=カーミラ――
その人でもあったのです。
けれども・・・一見して無作法にも見える、エルムの所作事には目的が隠されていたのです。
今のご時勢は、左を見ても右を見ても―――背後(うし)ろを振り向いても前を見つめても戦ばかり・・・
そんなとき、力の無い民たちは、ただ・・・周囲(まわ)りに翻弄されてしまうしかない―――
そこには・・・“笑み”という表情は、ありさえしない―――・・・
だからこそ、自分の主様も、そのお顔から“笑み”というものをなくされてしまった―――・・・
自分の主様から“笑み”というものが無くなって、幾星霜が経ったことだろう―――・・・
以前は―――自分が滑稽者の真似事などをしたときに、ココロの底から笑ってくれていたものなのに・・・
今ではニコリともしてくれない―――・・・
ならば―――自分が、主様から笑いというものを取り戻して差し上げよう・・・
そこでエルムは、古今に通ずる道化師や滑稽者の ネタ というものの研究に取り組み始め、
その手始めに自分の同僚であるヱリヤや、当時いた=丞相=や“ニルヴァーナ”に披露してみて、
皇である女禍様の前で芸事の披露をしてみせたのです。
けれども―――・・・やはりそのとき、女禍様はニコリともせず、ネタの披露が終わったエルムに向かい・・・
――ふぅん・・・今、市井の者達の間ではそんなことが流行っているんだ――
――中々面白かったよ、皆がココロから笑える日が来るよう、いっそうの精進をしておくれ・・・――
―――違う・・・こんなのじゃない。
あなた様は、“面白い”とは云って下さるけれども、ココロの底から笑って下されていない・・・
エルムは・・・とどのつまり、虚しさを感じていました。
自分としては、民がココロより笑えるのではなく、自分の主様である女禍様がそうならないと意味が無い―――
だからこそ、女禍様が一日でも早くそうなってくれるよう、精進を惜しまない日などなかったのです。
民たちは―――自分の披露するネタに、こんなにも共感し、笑ってくれる・・・
けれども・・・あの方は、口元は笑ってはいるのだけれども―――眼が・・・眸が・・・笑ってはくれてはいない・・・
万人の笑いよりも―――あの方たった一人が笑ってくれさえすればいい・・・
それは道化師の―――笑えもしないジョークでもあったのです。〕