≪三節;女皇よりの誘(いざな)いの言葉≫
〔―――ともあれ、宴も闌(たけなわ)となってきた頃、女皇と主賓のご機嫌を伺いたてに来た二人は・・・〕
ア:あ―――・・・タケルさんに婀陀那さん。
タ:そろそろよかれ―――と、思いまして、ご機嫌を伺いに参上仕ったのですが―――
婀:時に姫君、かの二人と・・・ルリは―――
ア:そのことなのですが―――・・・
〔今回の『双璧』召致の陰の立役者と云っても過言ではない、タケルと婀陀那の夫妻―――
その二人が、宴も闌(たけなわ)となってきたところで、主君と来賓二人の機嫌を伺いに来たところ、
すでにその場には、今回からアヱカの影武者となっているルリはもとより、ヱリヤ・エルム両名の姿は無かったのです。
けれども、それはそれで理由があるようでして―――・・・〕
ア:ルリさんは―――わたくしが適当な頃合いを見計らい、お仲間とご一緒するように伝えました。
ですが―――・・・ヱリヤ様とエルム様に関しては、各々の方から席を空けられまして・・・
また、その理由と申しますのも―――エルム様は、お酒が強い方ではなかったらしく、それでも諸官から勧められる杯を断るわけには参らず、
どこか―――あの蒼白い顔色をいっそう蒼くされて、外の空気に当たってくる・・・と、云っておられました。
婀:(ふぅむ・・・古の勇将とは云えど、お酒は弱かった―――と、云うことか・・・)
・・・して―――ヱリヤ様は。
ア:ヱリヤ様は―――エルム様が席を外された後、追うようにして『手洗いに行きたい』と―――・・・
タ:ほう・・・エルム様だけならばまだしも―――ヱリヤ様までも・・・ですか。
それにしても、お二人とも―――
ア:・・・そう云えば、今日は満月―――だったね・・・
今屋上に上がれば、さぞや絶景を拝めることが出来るだろう。
タ:・・・然様でございましたか―――では、今しばらくの間、暇(いとま)を請いたく思います。
ア:うん―――・・・頼んだよ・・・
〔二人とも、古の勇将・猛将の典礼に倣っての酒豪ではないらしく、一杯二杯程度でお手洗いに直行―――とは、
なんともらしくも無い話もあるものだ・・・と、思いました。
けれども、女皇陛下からは、それとはまったく関係ないとも思えるお言葉―――・・・
今宵は満月である―――とのことを仄めかされたのです。
そう・・・今宵は満月―――天空には、さぞや美しいものが上がっていることだろう・・・
そのようなことを主君から云われると、さもありなん―――とした従者は、しばしの暇(いとま)を請いたいと願ったのです。
そんなやり取りに、眼を丸くする婀陀那は―――〕
婀:あなた―――どうしたというのです。
これからと云うときに、急に暇(いとま)を頂く―――などと。
タ:・・・婀陀那―――これから屋上に参ろう・・・
婀:はあ―――? あっ・・・ちょっと、あなた―――!
〔婀陀那は、アヱカとタケルの突飛なやり取りに、ついていけなかったようでした。
それもそのはず―――これから忙しくなろうとしているときに、暇(いとま)を請うとは・・・
それに―――端から見ても、会話が噛み合っていない・・・
現に、アヱカは今夜は満月だというし―――夫であるタケルも、それを強く望んでいる風でもあった・・・
いや―――もしかすると、自分の夫が“しばしの暇(いとま)”を請うというのは、そのことであり・・・
―――だとすると、今夜の満月に何か重大なことが隠されているのか・・・?
恐らくは・・・ そう だと感じているタケルも――― そう ではないかと感じずにはいられなくなった婀陀那も―――・・・
そこで、信じ難い光景を目の当たりにすることになるのでした・・・。〕