<第九十八章;蠢き交錯しあうもの>
≪一節;軍師からのお辞(ことば)≫
〔古(いにし)えの猛将を迎え入れたパライソは、早々に各戦線に≪鑓≫と≪楯≫の二人を送り込む―――と、云うのではなく、
一時的に、本営が設置されてあるウェオブリへと身柄を移されたのです。〕
エ:―――って、ちょっと!ちょっとちょっと! 私たちはすぐに実戦投入されるんじゃなかったのかい?
ヱ:(双子の芸人ネタか・・)
―――そうではあるまい、まだあちら側には、私たちが復活したことは知られてはいないはず。
前(さき)の先遣隊についても、“何者か”によって壊滅させられたことの原因解明には、時間を要することだろう。
それに・・・私たちほどの戦力を、実戦に投入するには然るべくの時機も見計らわなくてはならない。
違うかな―――タケルとやら・・・
タ:―――そこまでお察しであれば、ワシからはナニも申すべくもありません。
ですが・・・哀しいことに、あなた方は今や『伝説上』のお人だ―――
ワシと婀陀那は、あなた方の実力を知ることが出来ましたが、現在各戦線に赴いている者達まではそうではない・・・
だから、あなた方のコトを軽んずる恐れも出てくるのです。
〔タケルは、他の誰もが云えそうもないことを、そのまま ズバリ と云ったものでした。
確かに、そのことは、一時(いっとき)は失礼のようにも写り、怒りを買うものだ―――とも思われたのですが、
自分たちの戦歴―――活躍というものが、<伝記>というもので脚色されて、歪められた嫌いがあるものだと理解していたこともあり、
また、前線に赴いている各将から過分な期待を寄せられるのも、半ば迷惑なものだとして、
すぐには各戦線に実戦投入されるのは避けられたのです。
それはさておき―――パライソ国女皇であるアヱカは、この時期にある者をある官職に迎え入れようとしていたのでした。〕
誰:―――私に、なってもらいたい職がおありとか・・・
ア:よく来てくれたね―――リジュ。
元々、フ国の王族であるあなたに、私の下で働け―――と、云うのは、不服かもしれないけれど・・・
リ:いえ・・・私も今では、パライソの一国民に過ぎませんから・・・
女皇陛下のお言葉とあらば、万障繰り上げても聞き届けぬわけには―――
ア:リジュ―――・・・
それではあなたを、これよりパライソ国・少府に任命いたします。
リ:“少府”―――皇国の財産の管理を、私に一任する・・・と、申されますか―――
ア:その通りだよ―――何よりあなたは、元・王族という身分であり宮中のことは何かと詳しい、
それに・・この国も創建して間もないから、何かと数字の面で苦慮している面もあることだしね・・・。
だからこそ、あなたに頼みたいんです―――引き受けて・・・いただけますね。
リ:委細―――承知仕りました・・・
ア:ウフフ―――ありがとう・・・
ああそうそう―――お礼といってはなんだけど、ホウ様の 大学 の件、私からも一言添えさせていただきますよ。
リ:これは・・・重ね重ね―――感謝申し上げます。
〔パライソ国の内官―――“少府”・・・
その官職は、皇国の財を管理するところであり、実数的にも明るみにされることから、
国が富んでいるか―――そうでないか・・・が、はっきりとされてしまうところでもあったのです。
それに・・・パライソ国は、建国されて間もない国―――例えそれが、旧・フ国の版図をそのまま受け継いでいたとしても・・・
その財与までは、引き継いではいなかったのです。
けれどもアヱカは、国の内部でもありあたら弱みとも映る部分を、旧王国の王族の一人に託すことに躊躇(ためら)ったりはせず、
そのことよりも、その人のことを信用に足る人物だから―――と、感じる部分が多くにしてあり、そうしたからに他ならなかったからなのです。〕