<第九十九章;総て人民のために>

 

≪一節;施し≫

 

 

〔パライソ国の都―――シャクラディアでは、国主である女皇・アヱカが、

誰に云うでもなく・・・また云われるでもなく―――日ごろ貧困に喘(あえ)いでいる民たちに対して、

“施し”とも思えることを成そうとしていました。

 

しかし―――そう・・・“誰に云うでもなく、云われるでもなく”・・・とは、全くもっての突発的な行動でもあったのです。

それでは、アヱカは具体的にどのようなことを成そうとしていたのでしょうか。〕

 

 

娘:皆さ~―――ん、お集まりくださ~―――い!

  只今より、お国の倉から少しばかりお借りして、炊き出しをいたしておりま~―――す!

 

民:あ~―――・・・あ?!お国の倉―――って、お偉い方のお許しがなければ開放できないんじゃなかったっけか?

民:そ―――それにしても・・・なんともいい匂いだなや~

民:あ・・・ああ―――ここ三日、家の周辺に生えてる草で身を保たせてるおいらたちにとっちゃ、堪(こた)えるぜ~~・・・

民:―――それにしても娘さん、一体誰からのお達しなんで??

 

娘:は―――はい・・・えぇ~っと・・・確か、録尚書事様―――だったと申されておりました。

 

民:だども―――録尚書事様・・・って云やぁ、確か今はウェオブリで戦の総指揮をされてるんでねべか?

  その方が―――おいらたちの倹(つま)しい暮らしを知ってるってなぁどうにも解せねぇなぁ・・・

民:おいおい―――変な気を回すのはよそうぜ?

  今は肚一杯食って―――明日からの仕事に精をださにゃ~

民:―――それもそうだな。

 

娘:・・・―――さあ、どんどん召し上がってください。 おかわりはいくらでもありますよ―――

 

 

〔この国の、国営食堂の近くで、この国の民の衣装に身を包んだうら若い女性が、

国が備蓄している穀物の倉を臨時開放し、炊き出しを行っていたのでした。

 

しかし―――当初のうち、民たちの内では、国の穀物倉を開放するには、

国の要職にある高官の許しがなければならない―――と、指摘してみると、

そのうら若い女性は、録尚書事からの意向を受けて行っているものである―――としたのですが、

そのお許しを得た高官も、現在ではウェオブリに駐屯をする人物であることから、

だとしたらどうして自分たちの貧しい暮らしの実情を知りえているのか・・・を、殊更疑問に感じたものだったのです。

 

ですが―――・・・

そんな疑問を前にしても、自分たちはお腹を空かせた民であり、このうら若い女性が一人で作ったと思われる炊き出しを、

わき目もふらずにがつついていたのです。

 

それに・・・

良くも悪くも―――彼ら民たちは、パライソ国の女皇陛下の姿というものを、あまり詳しくは知りませんでした。

ただ―――登極された当時、お姿を一般開放されてはみたのですが・・・

遠目で詳しくは判らなかった―――・・・

また、人伝(ひとづて)に聞くにしても、うら若く―――かなりな美貌の持ち主であること・・・

菫色の髪を靡(なび)かせ・・・情熱的な真紅の眸をされているという―――・・・

 

云うなれば・・・そう・・・今、炊き出しを民たちに配膳している娘に、似てはいたのです。

 

 

それにしても・・・“貧困に喘(あえ)いでいる”―――としても、その実情までは知らない・・・また、知らされていない。

国の頂点に立ちうるということは、国の根幹に位置する彼らの苦しみというものを知らないということはしばしばにしてあるようで、

それをもし議題に立ち上らせても、反対の憂き目に曝されてしまうことも儘(まま)にしてあるのです。

 

しかし―――それをついに知ってしまった・・・

“飢え”を凌ぐのに、食べられる草までも口にしているなんて・・・

そのことは知っておいて良かった―――とする反面、もし独断で行ってしまったことが他者に知られてしまったら、

手厳しい追及は免れない―――と、アヱカは覚悟をしてコトに臨んでいたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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