≪二節;官からの問責≫

 

 

〔国の穀物の倉が、臨時的に解放された―――ということは、すぐに内政務官たちの間で広まっていました。

そして、そのことは女皇であるアヱカの独断で行われたことも、一両日の下に判明することとなってしまったのです。

 

けれども・・・今のアヱカには、弁護をしてくれるような味方は一人としていませんでした。

イセリアにしろ―――婀陀那にしろ―――また、タケルにしろ―――

現在では北方の脅威とも云えるカルマとの戦いに備えるため、皇城・シャクラディアを離れ遠くの地に出向いているのです。

 

云い返れば―――そう・・・これは、アヱカのたった一人の戦いでもあったのです。〕

 

 

官:アヱカ様―――この国の当主でもあるあなた様が、此度の件を独断でなされたのは、いかがなる所存からでございましょうや。

官:そうですとも―――そも、アヱカ様におかれましては、此度の決断・・・録尚書事様や尚書令様によろしくご相談の上、なされたことでございましょうな。

官:いいや―――かの方々はカルマに抗するため、一時的にこの国を空けておられるのだ・・・

  アヱカ様―――民を思う気持ち、官は判らなくでもないのですが・・・これからも、あなた様お一人で政治的判断をなされるようならば、

  われら官はいかなる働きをもって国事に当たればよろしいのですかな―――

 

 

〔アヱカは―――今まで自分の保身しか考えず、民たちの暮らしは二の次としていた=列強=の諸官とは違い、

今回自分が専行でしてしまった行為に苦言を呈してくれる、この国の諸官たちに対して非常に頼もしく思い、また申し訳のない気持ちになっていました。

 

けれども、アヱカにはアヱカなりの云い分もあったのです―――〕

 

 

ア:―――確かに、この度私が下した判断は、あなたたちを蔑(ないがし)ろにする行為であったということに、

  非常に軽率だったと反省するに足ることだったように思います。

 

  けれども―――この国もそうだけど、以前からある=列強=のような政治的判断のあり方では、非常に時間がかかってしまうことでもあるのです。

  そしてそのことは、一つの決め事を細かく吟味していくことに関しては、非常に良い手段だとも云えます。

  しかし―――・・・民たちの暮らしの、倹(つま)しくも厳しいこの現状は、すでに眼に見えてきているのです。

 

  一昨日も――― 一人のご老人が、自分の住居で孤独死しているのを、ある官の報告により知りました・・・

  その一週間前にも、自分たちで養えない子供を産んでしまったことで、一家で無理心中をしているということも聞きました・・・

 

  ―――もし、この国の福祉が行き届いていたなら、経済的にも弱者である彼らの死は免れたかもしれない。

 

  私は・・・自分が歯痒くてならなかった―――

  もし、寸前で彼らの苦しみを判っていたとしても、制度が構築されるまでに時間を要してしまう、現在の政治的判断では手遅れになってしまうんだ―――

  目の前に・・・苦しみ喘(あえ)いでいる人たちがいる―――それを見てみぬフリが出来る私ではなかった・・・

 

  今回のことに関しては、独断的であり、あたら独善的なことをしてしまった―――

  そのことは詫びましょう・・・けれども、私がそのことに至ったまでの背景も酌んでほしいのです。

 

  私は・・・女皇である自分よりも、民たちの快活なる様を希(のぞ)みたい―――

 

 

〔女皇は―――アヱカは知っていました・・・

今自分が述べたことよりも、より厳しい生活を強いられている民たちの暮らしのあり方を・・・

 

そして―――昔から何一つ変わってはいない、あることにも・・・

 

国を治める立場にある者達は、日ごろ裕福な暮らしをしている―――・・・

上等な衣服を身に纏い・・・栄養のある食べ物を口にしている―――・・・

 

けれども、逆に国家という単位の底辺に位置する民たちの暮らしぶりは、

昔と比べ、何一つ変わってはいない―――・・・

ボロの服を身に纏い・・・衛生的ではない住居に住み・・・食べられるものは例え草でも口にする・・・

同じ人間同士なのに、どうして同じような暮らしが出来ないのか―――・・・

それは、アヱカの、彼女の人間としてのあり方だったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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